遠隔コミュニケーションがものづくりプロセスを
変え始めた -5カ月間に感じた変化-
2020.09.01
パラメトリック・ボイス 安井建築設計事務所 村松弘治
コロナ禍の生活で感じたこと。…社会における現在のICT技術の精度の高さと展開の速さを実
感した5カ月間でもあった。例えば電子決済などは、元々整備が進んでいた技術・システムで
はあるが、使う側の意識が高まったことで、その存在と有効性が注目されたりもした。また、
在宅勤務では、新たな業務手法やテレカンファレンス、ミーティング、ウェビナーなどを矢継
ぎ早に体験し日常化することで、確実に人の意識に変化が生じている。これは、私たちもそう
であるが、クライアントの理解もかなり進んできている。ということで、今回はオフィスと離
れた空間とのコミュニケーション方法の話題について触れてみたいと思う。
事務所を飛び出してやってみたこと
最近は、Webを活用した会議・ミーティングなど遠隔コミュニケーションの機会も増加してき
ているが、ここでは、カメラと映像データを活用したコミュニケーションの経験を紹介したい。
一つ目は360°カメラを活用した遠隔コミュニケーションシステムである。これは数年前から取
り組んでいる監理フェーズでの活用であり、1週間ごとにクラウドデータを更新し、現場の進捗
状況や各部位ディテールなどを確認することができる。平面プランとパノラマデータを紐づけ
ていることで、現場にいる環境をオフィスで再現できるとても便利なツールである。実際使っ
てみると効果と効率を感じるとともに、ベテラン、若手の設計者による複合的視点、各分野の
設計者による統合的視点でチェックすることができ、おのずと品質を高めるメリットもある。
今回のようなコロナ禍で行動が制限された時や、遠隔地における現場監理にはとても有効であ
ろう。
これらは新築工事のみならず、工事前調査のアーカイブデータとして改修工事でも大きな力を
発揮する。また、360°カメラを装着したドローンを飛ばして撮影することもできるため、通常
目の届きにくいところを含め、様々な視点からのデータ保存が可能である(参照:安井ファシ
リティーズ パノラマmemo)。
二つ目はiPadを活用した検査である。現場でのiPadの活用は、すでに施工者を中心に実施され
ているが、鉄骨製品検査をこれで実施してみた。カメラの精度が良くなっているため、遠隔操
作でも十分にチェックが可能である。さらに、複数のベテラン設計者の目による確実な確認と
ともに、若手設計者の教育の場としても活用できるメリットがある。カメラやマイクの扱いな
ど運用面での課題はあるものの、工夫の範囲内であり、今後の活用拡大が期待できる。また、
クライアントからの評価も高い。
こういった監理フェーズでの遠隔コミュニケーションは官民問わず試行が始まっている。特に、
この5カ月間、これまでの監理手法概念とその意識に変化を感じている。合理的な業務運営と
成果が明確に確認されれば、その手法の共有は必要ではあるが、事業費のコスト削減や効率化
につながる可能性があり、更なるクライアントのためのICT/BIMの展開にもつながるだろう。
今後の遠隔コミュニケーションへの期待
遠隔コミュニケーションの精度を高めるためにはカメラの性能とデータ精度の向上がポイント
になる。
カメラ撮影→点群データ化→BIMに結び付けることで、より正確な空間把握が可能になる。こ
れにロボット技術(すでに福島原発でも用いられているが…)を絡ませることにより、設計者
がいつでも自由に現場を「訪問」することが可能になる。今後の展開が期待できる分野である。
コロナ禍の体験から、私たちはすでにリアル(アナログ)とリモート(デジタル)を上手に使
い分け始めており、人と人との関係で成立するアナログ的プロセス運営に効果的に絡ませてき
ていることがわかる。厳しい体験から生まれた一人一人の意識の変化や工夫が、確実にポスト
コロナのプロセス変革につながり始めている。今後の展開に期待したい。