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コラム

デジタルの信頼性

2020.10.13

パラメトリック・ボイス      ジオメトリエンジニアリングラボ 石津優子

携帯の電源が切れると自分が無力に感じることはありませんか。私が小学生の時は携帯電話と
いうものが身近にはありませんでした。思い返せば、小学生時代は仲が良くなった友人の電話
番号を記憶して電話をし、友人宅も記憶に頼って遊びに行っていました。今電話をかけるとき、
自分の記憶よりも携帯に登録されているデータを信じますし、何度かお邪魔している場所です
らグーグルマップを頼りに移動していることがほとんどです。おそらく、自分の中で記憶をす
るという行為は、携帯電話に任せておけばよいという生活に変わったように感じます。計算に
しろ、暗算よりもアプリに任せて計算をしなくなりました。

いわゆる世間で一般的に語られる世代感ギャップというのは、年齢そのものよりも、浸透した
テクノロジーにどれだけ依存しているかという生活様式ギャップが、コミュニケーションを難
しくしているのではないかと考えます。人の能力というのは、トレーニングさえすれば想像以
上に最適解を出すのは得意ではあります。おそらく毎日暗算をしている人は、電卓なしでも暗
算で正しい数値を出せますし、電卓で押し間違えることを考えると、自分の暗算の方が信頼で
きると答えるでしょう。そこに電卓を使いましょうと提案されたら、毎日トレーニングをすれ
ばいい、さぼるのは辞めようという話になるのではないでしょうか。逆に提案した人からすれ
ば、電卓という道具があるのに、なぜその努力をしないといけないのかと不満に思うことで
しょう。どちらが良い悪いというわけではなく、歴史を振り返ると必ず便利なものや楽できる
ものは普及します。どれだけ、規制しても特殊なコミュニティや文化を作る以外は、テクノロ
ジーは採用され、避けて通るのは難しいです。

その法則に沿って考えるならば、各BIMソフトの生存とは別に、情報をジオメトリに持たせて
管理するという方法は、間違いなく浸透するでしょう。データベースや通信インフラが進化し
ている以上、建設業だけ情報をメタとして扱わないと予測するのは無理があります。そのデー
タの担い手の中心は、現在の建設業従事者でなくなる可能性はあるかもしれませんが、確実に
進みます。

その前提で、いかにこのテクノロジーに対する依存度からくる信頼のギャップを埋めることが
できるかを考えてみます。まず情報を1次情報、2次情報、3次情報と区別することとします。
第1次情報は、実際に自分で体験した、経験して得た知識です。例えば、BIMデータを触り、
データベースやAPIを触ってみたときに得た情報です。
 
第2次情報は、BIMに携わる人たちが持つ第一次情報をその人たちから聞いた話で得た知識。

第3次情報は、ジャーナリストやメディアを通して編集された形で情報を受け取った知識です。

BIMの知識を得るのは、この三層構造になります。第3次情報だけだと、体験を伴わない虚構
の信頼関係が出来上がり、第1次情報を持った人たちとギャップができあります。第一次情報
だけだと、現在の作業にとらわれ、ビジョンや可能性が狭まり、視野がせまくなる可能性もあ
ります。第2次情報だけだと、自分でやってみるという気持ちになりにくいかもしれません。

立場によって、比率は違うにしろ、一通りすべてのレイヤーの情報はインプットしておくとい
うのが大事だと思っています。

そしてやってみると決めたのならば、文化を失敗理由に挙げず、論理的かつ客観的に改善案を
試してそのイタレーションの回数を増やすべきです。日本文化に合わない、社内文化に合わな
い、業界文化に合わない、○○文化に合わないという話は、実際に目の前の問題解決から遠い
議論になりがちです。新しいものは既存文化には合わないという仮説をつくるのは簡単です。
なぜなら導入されていないという事実があるので、そこに理由を付け足すのは誰でもできるか
らです。

過去の事例でみるならば、女性の社会進出の例で考えるとわかりやすいでしょう。私の親世代
では、寿退社が一般的でした。女性は社会で働くのは向いていない、女性には大学は必要ない、
なぜならそういう人たちは過去にいないから、という立証は簡単です。

将来の話をしましょう。今できるだけ、良い変化だけを語るようにしたいと心がけています。
企業から相談を受けるようになるとは、5年前の自分では想像もつきませんでした。時代の流
れや、周りのサポート、コネクションや、様々な要因がありますが、実際の肌感覚で働き方や
企業が変わってきています。小さな取り組みが少しずつ信頼へ繋がり、一緒にできることが増
えてきています。最近、協力会社として紹介してくれる担当者も増えて、共同開発として一緒
にやってみたいというお声がけも頂けるようになりました。圧倒的な技術力があれば、関係性
構築はいらないですが、私の場合は、こうした担当者間との関係性構築、信頼性の構築によっ
て少しずつ新しいことに挑戦できているのだと確信しています。デジタルを信用できない場合
は、闇雲に信じなくてもよいのです。まずはそれを担う人に目を向けて、信頼できるかを実際
に関わって判断していけばよいのではないのでしょうか。

石津 優子 氏

GEL 代表取締役