アナログ人間がデジタル人間になる
2020.11.04
パラメトリック・ボイス 安井建築設計事務所 村松弘治
いまなぜ、リアルとデジタルの合成が必要か?
コロナ禍はリアルとデジタルの調和の必要性について考える機会を与えてくれた。
リアル人の特徴は豊富な経験は持っているがデジタルに弱い。一方、デジタル人の特徴は新し
いデジタルツールを駆使し、これまでにない発想がどんどん出てくるし、以前にはなかった提
案アプローチがみられる。とてもワクワクする。でも経験と技術の不足が不具合や不完全消化
ももたらしている事実もある。
従来から、リアルは能力ある人と人とのふれあいで相乗効果をもたらし、結果につなげてきた。
これからの時代、リアルとデジタルのポテンシャルを上手に合成することで、新しい発想と技
術、そして経験を組み合わせて、さらに高い質の建築を生み出すことができるのだろうと思う。
そのためには、アナログとデジタルの境目を無くし、同じ目的に向かって共有できる環境づく
りが、今、必要ではないか。今回はそんな話をしようと思う。
組織にスキルマップはあるか?
設計監理には多世代の人々が関わっている。先にも述べたが、当然、リアルとデジタルの日常
が存在する。
これらを効率的かつ効果的に実践、運営するためには、まず、組織のスキルマップを整理する
ことが必要になる。つまり、誰がどのような経験や知識や技術を持っているか、そしてデジタ
ルスキルを有しているか、あるいは傾倒しているかなど…。ということで身近のスキルマップ
を分析してみるとデジタルとアナログの境目が50歳中~60歳ぐらいにあることがわかった (勿
論、個人差はある。年齢を超えても卓越したデジタル技術や論理を身に着けている人は大勢い
るし、若手でもアナログが大好きな人も多いのがこの業界の特徴でもある) 。俗に言われるア
ナログおじさんの世代である。ただ、このアナログ世代は多くの経験、知識、技術、そして勘
を持っている人が多い。実践舞台においてはとても頼りになる世代でもある。
前回、工事監理や検査でのモバイル活用(360°カメラを利用した遠隔コミュニケーションなど)
を紹介した。実はこれらの事例は60歳以上の人が、彼らの経験をもとに、アナログとデジタル
をうまく融合して使いこなしていたのだ。これらは、アナログ頭脳とデジタル技術の有効合成
利用ができると思った瞬間でもあった。
アナログとデジタルの有効合成アイディア
彼らの使い方は、アナログのプロセスにデジタル的なものを組み込んで使っているというのが
正確な表現だろう。言い換えれば、アナログを便利にするためのデジタルの活用と言えるだろ
う。主体は日常業務であり、デジタル化はそれを便利にするツール…というように、あまり難
しくとらえていないところに利点がある。
これとは別に、竣工後のビル管理でも同じようなことが見られた。先の「360°カメラ+施設運
用支援機能」を用いて、日々のビル管理履歴(不具合発見、対応・修繕、その他)を簡単に整
理し、効率化を図っている。
ビル管理のプロセスはアナログであるが、データの整理はデジタルである。ここまでくると立
派な合成と言えるのではないか。
こういった、人の頭脳やコミュニケーション力とデジタル技術を融合していくことが、建築や
運営のクオリティを高め、多くの世代が活躍できる場面が増え、働き方の改革にもつながるよ
うに思う。
実は、設計フェーズでも同じような活用方法がある。アナログ世代の基本は「紙」である。そ
れじゃ、それの形を変えて使える方法を探せばよいのである。切り口はPDF。ということで、
PDFをデジタルで重ね合わせて図面チェックや施工図チェックをしてもらった。これが驚いた
ことに、アナログ世代は難なく使いこなせるのである。彼らの感性では精緻な重ね合わせは必
要としない。細かなところは頭の中で想像できるからである。むしろ、煩わしい大きな整合性
のみが簡単にチェックできればよいのである。これらは建築-構造-設備-外構図の整合性チェッ
クとともに、仮設計画にも有効に活用できている。この詳細成果は、後日、改めて話をしたい
と思う。
アナログおじさんのデジタル化がつながるプロセスのポイントかも?
経験豊富なアナログ世代の人たちは、勘所に優れた人も多い。デジタル化の波に少し居場所を
奪われたようなところもあったが、コロナ禍がうまく改善の機会を作ってくれたように思う。
もう一つ。アナログ世代の知恵の多さと柔軟さには驚かされることが多い。実践を踏まえての
的確な付加機能を提案してくれる。これによってシステム全体のポテンシャルがUPし、デジタ
ルツールとの連携も拡大する。使い勝手やアクティビティに視点を置いたアナログおじさんた
ちの発想が、便利なデジタルツールとして昇華していくことを感じているこの頃である。この
先の若手世代との融合と展開がますます楽しみでもある。
創造と品質の両立が新たな価値を生むことにもつながる。先進的な挑戦も必要かもしれないが
一方で、「つなげる仕組」への挑戦も必要であろう。建設全体におけるデジタル(BIM)プロ
セスのつながりに苦労しているが、このように見方を変えると、さまざまなつながりが見えて
くる。同時に次の時代の働き方へのリニューアルも見えてくる。DX(デジタルトランスフォー
メーション)への働きかけが活性化してきている今日この頃であるが、すべての人が入りこめ
るデジタル化も必要なのではないか。こういった動きは、この先もどんどん変化する社会のア
イテムや人やプロセスをつなげる大切な考え方になるのではないだろうか。