Magazine(マガジン)

コラム

たかが情報、されど情報

2020.11.26

パラメトリック・ボイス
              スターツコーポレーション /
Unique Works 関戸博高

毎日繰り返されるコロナ感染情報、やる・やらないと続くGO TOなんとか、マスコミが大騒ぎ
した後、殆どニュースにならない日本学術会議等々。こんな日々のゴチャゴチャの中でも、仕
事に必要な情報は適宜キャッチしシェアしたい。
たかが情報、されど情報。ではどうすれば良いか。今回はいわゆるBIMデータについてではな
く、BIMの将来像を含め、多くのことを経営的にも技術的にも正しく判断するための情報をど
う共有すれば良いか、なぜそういうことをしようとするのかについて書いてみたい。
 
きっかけはコロナ禍によるリモート・ワークだった。通勤時間の無駄が減る一方で日常的な会
話も無くなた。ちょっとした気付きを誘発するアドバイスもタイミング良く出来なくなた。
「空気を読む」習性のある日本人にとっては、「空気」が無くなってしまったと言ってよい。
しかし考えてみれば、もともと離れたところにいる人とは「空気」の有る無しは関係がない。
それでも良い仕事は出来る。ならばクリエイティブな良い環境は、「空気」に頼らず情報を適
切に共有し蓄積する方法を考え出すことではないか。
こんなことから、「情報共有ネットワーク」を始めた。極少のネットワークだ。私はその管理
人をやっている。
これは同じ企業で働いている人もいれば、知り合いの知り合いぐらいの緩い関係の中で、新聞
やインターネット上の共有したい<公開情報>をコメント付きでシェアするネットワークだ。
暗号化機能が優れているWhatsAppというアプリのグループ機能を使って行うシンプルなもの
だ。自薦他薦で現在30人弱の人たちに参加してもらている。人数を多くすることに価値を置
いていないが、異なる視点を持つ人は大歓迎だ。収集・発信したいテーマは人それぞれだが、
多いのは(a)免震特に海外への技術移転(b)都市開発やPFI・PPP(c)BIM-FMを中心とし
たITの全領域についてである。
 
問題意識の背景にあるのは次のようなことだ。
状況①:私の思い込みもあるが、2020年に入りBIMだけでなくあらゆるデジタル・ビジネス
関係の情報が、異常に多く出回るようになった。更にコロナ禍により、リモートでの仕事や会
議・セミナーなどが常態となった。情報過多で見落としてしまうかも知れない情報を、シェア
し合うことが重要だと気付いた。例えばプロジェクトを進める上で、関係者の合意レベルを高
い位置で維持したい場合に、情報の認識に差があり過ぎると色々な障害が出てくるからだ。維
持するためには関係者の情報感度を一定の高さに保つ必要がある。
 
状況②:2009年が日本の「BIM元年」と言われ既に10年以上が過ぎた今年はすでに書い
たようにBIMに関する情報も、インターネットを介して大量に流れるようになった。私はこの
現象を日本における「BIMのBig Bang」だと思っている。国交省のBIM推進会議の影響もある
のだろいうが、大手ゼネコンの動きが活発化し、それがまた複数のメディアに孫引きされ、
何倍かになって我々のパソコンに届くようになった。
例えば最近、スーパーゼネコン3社がロボットなどの分野で技術連携をすると発表された。こ
の延長には、建設に関わるデジタル情報のプラットフォーム化が想定され、更にこのままスン
ナリ行くかどうかは分からないが、情報の連携が資本提携につながる可能性も容易に想像出来
る。それはまた日本の社会経済の将来像と重なって見える。つまり、このようなニュースをど
う解釈していくかは人様々であるが、BIM的世界のみならず経営的視点からも共有しておきた
い事柄である。チーム方針の合意形成にも影響する。解釈のレベルにより、次に打つ手が違っ
てくるからだ。
我々のネットワークの中では、世代や立場とは関係なく情報がシェアされるので、若い人たち
や専門分野が異なる人たちも多角的な気付きが多く得られるはずだ。
 
状況③:この時代に新しいサービスを開発しようとしたら自社内の人的資源だけでは難しい。
問題が複雑化しているため、データを解析・運用することが多くなり、能力のある個人を繋い
だネットワークでなければ、対応出来ないようになっているからだ。言い換えると、複雑化し
た課題を解ける能力のある人材を探し、タイムリーにネットワーク化するための仕組みが必要
になっている。<公開情報>を媒介として、それぞれの知の指向性を発信し合うことは、直接
会う機会が減ったこの時期には、人材探索のきっかけ作りになるのではないか。きっかけが出
来れば、自分でその情報の発信源にアプローチすれば良い。そこから先は勇気と行動力だ。
 
状況④:ここで<公開情報>と敢えて念を押しているのには、二つの意味がある。
ひとつは、参加メンバーの所属する組織内の情報は、原則として扱わない。
もうひとつは、やらなければならない事を判断する上で、<公開情報>を読み込み解析するこ
とが普段から大切だと思うからだ。いわゆるインテリジェンスという国家レベルの情報活動で
90%以上がそのような<公開情報>から得る活動に充てられると言われている(Wikipedia
「諜報活動」より) 。また、長い間その世界で仕事をして来た岡崎冬彦氏もその著書『情報戦
略のすべて』で、次のように述べている。「情報事務の基本は公開情報の分析能力にあるとい
うことです。これは(中略)情報事務について書かれているいかなる文献の中でも一致して強
く指摘されていることです。」。
 
世の中には情報発信をビジネスとしたり、Facebook で個人が幅広く発信することもある。
色々なやり方で情報共有の仕方があっても良いと思うが、今回書いてきたような企業の枠を超
えた、個人ベースの情報共有ネットワークも、しばらくは続ける価値があると思っている。

関戸 博高 氏

Unique Works     代表取締役社長