デジタル・匠・A&D
2021.02.04
ArchiFuture's Eye ARX建築研究所 松家 克
迎春!今年もよろしくお願いします。
新年早々から辻井伸行さんのピアノ演奏の虜となり、ジャズが大好きなのに何故かクラシック
に目頭が熱くなるほど感動。巣籠りの日々でした。
昨年は、新型ウイルスCOVID-19で世界中が明け暮れ、東京オリンピック2020も延期。あっ
という間の1年。しかし、地球を席巻しているパンデミックスは、まだ治まりそうにありませ
ん。医療関係者の方々の献身的な医療対応への感謝と共にワクチンに期待しているが、どうな
ることか。まだまだ、心配と不安が解消されていない。しかし、Newノーマルな生活やオン
ライン会議にも馴染んできた感があり、今年は、良き年にすべく前向きに取り組みたいと考え
ている。
さて、今年最初のコラム本題。
日本のトップ企業やリーダー企業がデザイン重視の方向性を一昨年ごろから強く打ち出し始め
た。このコロナ禍で陰に隠れているが、着々と進行しているようだ。
日本では、今までにもデザインの重要性が何度も叫ばれてきたが表層にとどまり、まだまだの
感があった。世界の携帯やPCをリードしてきたアップル社のPCやiPhoneなどの機器は、機
能性とデザイン性が融合し生み出された魅力的な形態であり、インスタグラムやフェイスブッ
クなどのアプリが溢れる状況下では、工業や建築のデザインだけでなく総合的なデザイン力に
よって企業魅力が判断される時代となっている。日本が誇る新幹線やリニア、電車、車・
モーターバイク、道具類などのデザインは世界をリードし、経営上の競争力を高めてきたとも
言える。
日経XTRENDによれば、経済産業省による『デザイン経営』宣言は、デザインによる企業競争
力強化に向けた課題整理と対応策をまとめたものだ、という。デザイン活用によるイノベー
ションやブランディングを重視する姿勢を打ち出し、意匠法の改正まで視野に入れている。今
後、デザイナーの役割が更に重要となり、企業経営にも影響がありそうだ。「デザイン経営」
宣言がもたらす波紋と、すでに走り始めた先進事例を追う、ともある。
日本を代表するパナソニックやソニー、ホンダ、トヨタは、デザインの重要性を確認し、更な
るデザイン重視に転化を図っている。パナソニックのデザイン理念は、デザインフィロソ
フィー「Future Craft」を基本の考え方とし、くらしとビジネスに関わるさまざまな領域にお
いてお客様満足の実現に取り組んでいます、との紹介がある。
一方、ソニーのデザインは、多様な価値観との共鳴を重ねるなかで、それは新しい潮流となり
「原型」へと結実させ、デザインのあらゆる可能性を開拓し続け、世界中の人々とともに新し
い価値を創出する、とある。
片や最近のホンダのデザインは、魅力が無いとの声を聞くことがある。このこともあるのか
本田技術研究所デザインセンター クリエーションラボ原宿を創設し若いクリエーターの充実
を図っているようだ。
2020年、世界の勇トヨタは、静岡県裾野市でのWoven City計画を大々的に発表した。こ
の直後にコロナ禍に見舞われたが、ポストコロナも見据えているという。マスタープランなど
は、Archi Future 2015の講演にBIMマネージャーをお招きした「BIG」を創業した建築家
のCEOビャルケ・インゲルス氏が担当するという。
話は飛ぶ。昨年の11月の朝日新聞によれば、日本の多くの伝統的な歴史的木造建築と伝統文化
を支える伝統建築工匠(こうしょう)の技が脈々と引き継がれており、この木造伝統技術がユ
ネスコの無形文化遺産に登録される可能性が出てきたという。これらは芸術的技術とも言える。
この記事で思い浮かんだのが、最近、日経産業新聞の仕事秘録で建築家の青木茂氏に関する連
載。この新聞では珍しく建築家が取り上げられ、氏が提唱する「リファイニング建築」が注目
を浴びている。SDGsにも大きな役割を持つものだと言え、良質のリフォーム建築を目指す
ものである。この提案が、現代から次世代につなげる伝統技術の萌芽と考えられ、伝統的な歴
史建築の技に通じるものを感じる。
このリファイニング建築も含めデジタル化での新しい動きが見られる。建築内部空間を人が担
いで移動しながら網羅的なデジタル計測(NavVis VLX:ドイツ)で、3次元の点群データを入
手できるセンサーが活躍する日も遠くなく、これも含めデジタル関連技術が今年は面白くなり
そうだ。
片や彩色画や水墨画などの日本画や浮世絵も重要な日本の伝統技術として連綿と引き継がれて
いる。
話は再び変わるが、ニューメディアアート、メディアアートは、20世紀中盤より広く知られる
ようになった。芸術表現に新しい技術的発明を利用、もしくは、生み出される芸術の総称的な
用語だという。特に、ビデオやコンピュテーショナル技術をはじめとする新技術で生まれたか、
これを積極的に利用する美術であり、今までの絵画や彫刻などとは異なるニューメディアを応
用した作品だとある。 ニューメディアアートは、情報通信技術、メディアがなどのデジタル形
式から生まれ、その作品はコンセプチュアル・アート、ICT・アートなど、広範な活動と言
える。
これらに関するアート思考は、クリエータの思考でもあり右脳・左脳の有効活用でもある。併
せ、これらでの日本のデザインやアートの礎は日本の多くの伝統的な歴史的木造建築と同じく
伝統技術にあると言っても良いかもしれない。村上隆氏や猪子寿之氏、漫画の鬼滅の刃も誤解
を恐れず敢えて言えば、伝統技術が支えている。一方、ビジネスと密接に関わり始めたとも言
える。アートビジネスである。KDDIでは、5GやARなどの技術でアート体験出来るアプリの提
供を若者向けに始めた。アートの楽しみ方もデジタル技術で大きな変化を見せつつあり、この
コロナで拍車が掛かったともいえる。
最後に、コロナの状況で日本のデジタル化の遅れが顕著に見えてきた。遅れを先に進めるイノ
ベーションには、日本の伝統的アート・デザインや匠の技術が欠かせない。これらは重要な資
産であり新コンテンツを創るコンテンツである。コロナ後は、日本から多くのデジタル系、匠
系、アート系の先進的情報発信を期待している。