ヒロシマBIMゼミ2020年総括
2021.02.16
ArchiFuture's Eye 広島工業大学 杉田 宗
子供の幼稚園の発表会に来た。毎年の恒例のイベントだが、今年はコロナ対策で学年ごとに
観客を入れ替えて行うという。通常なら年少から年長までの保護者によって一杯になった会場
で、子供の出番が近づくと出来るだけ前の位置を確保するためにせわしく移動するが、今年は
1学年分だけの保護者で会場はガラガラ。会場の後ろには、いくつかのカメラが並んでいて、
その映像はYouTubeで配信されている。つい15分くらい前に自宅で年中さんの劇を見てきた
ところ。リアルとバーチャル、同期と非同期が複雑に入り混じった状況の中で、満面の笑みで
登場した子供の演技が始まった。
コロナによって大きく変化したオンライン上の「発信」や「コミュニケーション」は我々が広
島で続けている『ヒロシマBIMゼミ』にも大きな変化をもたらしました。これまでのコラムを
通してすでにご存じの方も多いと思いますが、『ヒロシマBIMゼミ』は広工大の『BIM実習』
を担当する田原泰浩(田原泰浩建築設計事務所)と長谷川統一(杉田三郎建築設計事務所)に私を
加えた3人が中心となり、広島でBIMについての意見交換ができる場として以下の3つの目標を
掲げ、2017年より2ヶ月に1度のペースで開催してきました。
・BIMの活用と普及の推進
・BIMを活かした横断的なコラボレーションの誘発
・BIMを始めとする、建築における新たな情報技術の研究
2017年10月の開始以降、偶数月の開催を続けてきました『ヒロシマBIMゼミ』ですが、コロ
ナの影響を受けて2020年の初回となるはずだった2月の第15回を延期し、6月にオンラインイ
ベントとして再開するまでの期間、一時的に休止していました。我々としては、イベント後に
深夜まで続く事務所飲みが主な目的になりつつあったこともあり(笑)、当初オンライン開催に
前向きではありませんでしたが、長く続く自粛期間の中で「なにかやらないと!」という気持
ちが芽生えてきました。
ヒロシマBIMゼミ YouTubeチャンネル
初のオンライン開催となった第15回目の 「デジタルファブリケーションの現場」では、
2019年にSScaの2人と『Trunk Market Pavilion』を製作した大田設計事務所の大田一郎さん
と、杉田三郎建築設計事務所と杉田宗研究室が協働で取り組んだ『山根木材福岡支店』の木組
みパーティションを担当した奥川航大さんの2名に登壇して頂き、これらのプロジェクトを中
心に、デジタルファブリケーションを活用した設計や製作プロセスについてお話頂きました。
座談会では、SScaの稲垣聡さんにも加わって頂き、Shopbotをはじめデジタルファブリケー
ション設備を整備したSScaの工房や、そこで作られる様々なプロダクトについて紹介頂きまし
た。これらのプロジェクトやプロダクト、そしてそれを作るプロセスなど多岐にわたる内容に
なりましたが、ツールの変化によって生まれる思考の変化や、施工者などデジファブを活用す
る人材が増えることで拡がる新たな可能性などについて議論しました。また、今回は主催者含
め広工大のデジタルデザイン系科目の教員が揃ったため、建築教育におけるデジタルデザイン
のあり方についてもぞれぞれの視点からお話してもらいました。ものづくりをする上での「つ
くりながら考える」ことの大切さがある一方、BIMなどによって複雑化する情報を扱うリテラ
シーの重要性など、今後の教育に向けてのヒントも出てきました。
第16回目となった「ヒロシマBIMプロジェクトレポート01」では、以前のコラム「広島を“ヒ
ロシマBIMゼミ”の街から“ヒロシマBIMプロジェクト”の街に!」で紹介させてもらった我々の
新しい活動の報告をさせてもらいました。約半年間をかけて設計・構造・施工がBIMをはじめ
とする最先端の情報技術を活用しながら、新しい仕事の進め方を探り、そこで必要となるノウ
ハウやツールを開発した「フェーズ1」を、メンバー毎に振り返ってもらいました。統合役だっ
た長谷川統一さんに全体の流れを話してもらったあと、構造を担当した北九州市立大学 /
(株) DN-Archの藤田慎之輔先生、内部モデルを担当した田原泰浩さん、積算を担当した岸建設
株式会社の平賀幸壮さんに発表して頂き、最後には杉田三郎建築設計事務所の市村隆幸さんと、
杉田宗研究室の長谷川直人さんから、我々の共通プラットフォームとして開発した「協働モデ
ル」について説明してもらいました。『ヒロシマBIMゼミ』の3つの目標の1つである「BIMを
活かした横断的なコラボレーションの誘発」を目指したスピンオフプロジェクトでしたが、コ
ロナ禍によって大きく変化した「働き方」について深く考えることになりました。まだまだ実
践に使えるレベルには遠いですが、まずは横断的なコラボレーションのための線が繋がり、そ
の上を情報が行き来し始めたことは大きいとおもっています。
その次は対照的に「大和ハウス工業の施工現場でのBIM」を開催し、大和ハウス工業のBIM推
進に深く関わってこられた建設デジタル推進部次長の伊藤久晴さんから大和ハウスでの最先端
の取組についてお話頂きました。設計においての活用が広がるBIMが今後どのように施工に浸
透していくのかは非常に興味深いテーマですが、それを生産や物流とリンクさせながら推し進
めているのが大和ハウス工業の特徴です。スケールもフィールドも『ヒロシマBIMプロジェク
ト』とは比較になりませんが、長年の取組から得られた知見を共有していただくと同時に、そ
の取組を客観的に評価するための分析や、その次のレベルに活かしていくフィードバックの重
要性について考えさせられる内容でした。また、大和ハウスが掲げる目標や、日本の建築業界
が目指すべきビジョンにまで話題は拡がりました。
2020年の最後は「ポートフォリオレビュー2020」。建築情報系の学生が自分のポートフォリ
オを使ってプレゼンテーションし、それに対してゲストクリティークと主催者がコメントする
という新しい形式。建築情報系の研究室は数える程しかなく、建築情報系の建築学生は研究室
の縦の繋がりなどを活かしながら就活に繋げることが難しいのが実情である中、こういった学
生は強い興味を持って独学で頑張っているパターンが多いのも事実。そういう学生にスポット
を当てようという試みでした。実は私が10代の頃、自分の作品(集にはなってなかった)を持っ
て大学の教員に見てもらうイベントに参加し、そこで色々なアドバイスを貰い入試に向けた作
品集を作るきっかけになりました。これが「ポートフォリオレビュー」でした。今年は日建設
計DDLの角田大輔さんがゲストクリティークを引き受けてくださったので、学生達はコンピュ
テーショナルデザインの最前線にいる方からアドバイスをもらう機会を得ました。また、この
イベントには建築情報系の学生を探している企業の方が参加されており、通常のYouTube配信
が終わった後にはSpatialChatを使った懇親会にて直接いろいろなアドバイスをもらう場を作
ることも試してみました。学生達にとってはこういう場で発表することで度胸がつくし、来年
以降も続けて行きたいと思っています。
オンライン開催として再開したことで、結果的にこれまで以上の多くの方々に見て頂けること
に繋がり良かったと思っています。なんせ、ZoomとYouTubeを組み合わせれば、本当に簡単
に配信が出来ることを知ったし、ここで学んだことが大学でのオンライン授業や『建築情報学
会チャンネル』に活かされています。PCやスマホ1台で世界に向けて映像を発信できる時代で
あることは、我々に多くの選択肢を与えることになっています。どう伝えるか?どう見るか?
いつ発信するか?どこから見るか?昨年までなら考えもしなかった選択肢が増えていく中、何
を大切にしていくのかを見極めながら、色々な可能性を探求していきたいと思います。