BIMに知性が生まれる日
2015.10.27
パラメトリック・ボイス 竹中工務店 石澤 宰
先日の豊田さんのコラムに刺激を受け、私からも。まずはGrasshopperに関する私のお気に
入りのTipをひとつ。Formatコンポーネントの入力側をすべてなくすと、擬似的にParamコン
ポーネントとして機能します。数値だけでなくポイントやベクトルも格納できるうえ、正規のParamコンポーネントとは違い中身の変数が見えるので、あとで見直すときなどに大変便利で
す。
私のもうひとつの仕事道具であるRevitでも、簡単な操作でパラメトリックな仕掛けを作ること
が可能です。サイズや素材の可変なテーブルや、壁に合わせて移動する扉などが作れ、Revit教
則本にも題材としてよく出てきます。Revitで使えるビジュアルプログラミング環境Dynamoも
充実し、こうしたパラメトリックな設計手法が以前にも増して一気に注目を浴びてきたように
思います。
設計をすすめるうえで意のままにできる寸法は実は少なく、様々な理由でほとんどの寸法はお
のずと決まってきます。建築設計は製造業に比べて標準化が難しい分野ですが、これをパラメ
トリックなコンポーネントにして使い回してゆければ、思考は高速化し、作業時間は短縮する。
そのぶん我々には、色々なアイディアをもっと試したり、大好きな建築を見に行ったりするこ
とへの時間がもっと生まれるのではないか。これが私のデジタルデザインに対する興味の源泉
であり、今でもそれは変わりません。
仕掛け、からくり、ギミックには妙味があります。ピタゴラスイッチを見ているときのあの清々
しさはおそらく本能的なものです。こうした「時計じかけの設計」を組み上げること自体も面
白いもので、小さな仕掛けを作ってスタディを楽にするというワークが私はとても好きです。
ところが、私の作るような単純な仕掛けでも、複雑に組み合わさった時には直感を大きく外れ
た挙動をすることがあります。プロジェクトの誰かが良かれと思って作ったパラメタがリンク
して思わぬ動きをしてモデルが変形することなどは間々あって、どの程度モデルをインテリジェ
ントに作るかには多少の戦略が必要です。システムの暴走、というと何とも大仰ですが、組ん
だプログラムの動きが直感にどうしてもフィットしないとき、それはもはやまったく別物であ
るかのように見える時があるものです。そのほとんどは何ということもない、いわゆるバグで
す。プログラムに戻り、バグ潰しにかかります。
ラングトンのアリをご存知でしょうか。単純なルールに従う「アリ」がある空間にいて、セル
の色を白か黒に変えながら動きまわるというシミュレーションです。ランダムとしか言えない
動きを続けると、ある瞬間に突然、「意志」を持ったような動きが発生し、ランダムさは消え
失せます。
<下記の画像およびキャプションをクリックすると動画ページ(YouTube)へリンクします>
予期しない動作の中には、突然我々の設計に対する考え方を変える「知性」が生まれる可能性
があります。食品の「腐敗」と「発酵」は本質的に同じ現象で、違いは人間にとって有用かど
うかです*1。こうした知性すらも、数えきれないほどのノイズの中に突如ふわりと浮かびあが
る我々にとって有用な何か*2、という性質のものかもしれません。
さてしかし、脳はさておき、私が実務で目にするものはほぼ確実に無用のバグであり、バグは
デバッグするしかありません。暴走したままの系をプロジェクトに置いてやるわけにはいきま
せん。ではどうすれば素早くデバッグできるか。中身の動きをわかりやすく構築しておくしか
ないのです。
だから、ブラックボックス化を防ぐためにも変数は外から中身が見えることが大事であって、
そのためには上記のような窓付きの変数の方が便利であると。今回はそういう話です。ここま
で書いて思いつきましたが、こういう話はDavid Ruttenに言って改善してもらえばいいのかも。
今度掲示板に書いてみます。
*1 発酵は「人間だけの世界観」を越えた新しい関係性をぼくたちに見せてくれる
*2 単純な脳、複雑な「私」: または、自分を使い回しながら進化した脳をめぐる4つの講義、
池谷裕二氏著、2009