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コラム

未来の建設業を担う人材と多様性

2021.04.13

パラメトリック・ボイス               前田建設工業 綱川隆司

今年の秋にJAXA(宇宙航空研究開発機構)では13年ぶりに宇宙飛行士を募集するそうです
その応募条件が前回から大きく見直しになりそう、ということで話題になりました。従来は大
学卒、しかも自然科学系の専攻が条件でしたが、今回は専門学校卒以上で文系の専攻も可にな
るといわれています。宇宙飛行士といえば私が一番好きな映画といっても過言ではない「ライ
トスタッフ」(原題:The Right Stuff)という1983年のアメリカ映画があります“ライトス
タッフ”とは“正しい資質”という意味で1950年代後半に有人ロケット計画を担う宇宙飛行士
を当時の空軍エースパイロットから選抜する史実を基にした物語でした。宇宙を目指さなかっ
たサム・シェパード演じるチャック・イェーガーが私のお気に入りだったりします比較的記
憶に新しいものでは漫画「宇宙兄弟」(小山宙哉・講談社)でしょうかフィクションですが
閉鎖環境試験をはじめとする厳しい選考試験はリアリティが高く、読者はとんでもない倍率を
潜り抜け宇宙飛行士の切符を手にする主人公を仮想体験することができます宇宙飛行士とい
えばなりたくてもなれない職業No.1だと思っていたものですからその門戸を広げようとする
試みには興味を持ちます。これも現在求められるダイバーシティの一つなのでしょうか。
 
先日幹事を務める建築学会 BIM設計教育手法・技術WGにおいて、「デジタル⼈材育成に向け
た教育プログラムと実践」をテーマに慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研
究科教授の白坂成功先生にWebでのご講演をいただきました。講演の最中に建設会社の特に設
計部門にいる自分の環境を照らしわせて考えたときに、恐ろしいほど均質化された建築設計の
集団ではDX(デジタルトランスフォーメーション)は起こし難いかもしれないという思いを
強くしました私たちは無意識の中で同じバイアスで物事を見ていますがDXをはじめとする
イノベーションを起こすためのチームにはこのバイアスを超える多様性が求められるというこ
とでしょう。これは同WGで以前「BIMのかたち」を執筆している際にも感じたことですが、
これまでの設計手法の延長線にない、まったく新しい建築の在り様があるとするならば、それ
を起こすのは従来の建築教育の枠にとらわれない人材でしょう。
 
そんなことを考えながら採用試験の面接官を行っていました。3月下旬に緊急事態宣言は解除
になりましたが依然としてコロナ禍は収束が見えておらず、面接もTeamsを用いたリモート
での開催となりました。リモート面接は特に地方から受験する方にはメリットがあると思いま
したが、受験者側の通信環境は異なりますので、音声が途切れたり映像が止まったりというト
ラブルも決して少なくありません。こちらとしてはそれらのトラブルは審査に影響を与えない
よう努めて意識はしますが、受験する学生側は相当焦りますし、恐らく伝えたいことが伝えき
れなかったという思いもあることでしょう。開催しているこちらも不慣れな点も多く、事前の
資料共有などで今後改善する余地があるなと思いました。意匠設計者の選考ではポートフォリ
オを提出し説明をしてもらいます。ポートフォリオのまとめ方については指導教官の先生或い
は先輩達のアドバイスかもしれませんが、傾向と対策を踏まえているなあと思う場面もありま
した。しかし画面越しでのリモートの説明となると新たな課題もあります。画面共有を行い説
明する際に、文字が小さく読めなかったり、どこを説明しているのか分からなかったり、とい
う状況がありました。これは日頃の業務において実際に客先へプレゼンする際にも同じことが
言えて、私たちもリモートプレゼンの際には説明資料作成に気を使う場面が増えています。動
画を使う場合には通信速度がそれなりにあっても通信の遅延が発生するため、説明音声と画面
にタイムラグが出てしまいます。学生の方々も自信作を披露するのに環境が不十分では物足り
ない思いがあるかもしれません。
ポートフォリオのドローイングについて、過去には模型写真を用いたモンタージュも数多く見
受けられましたが近年はCGのレンダリングがかなり増えてきましたデータ自体はBIMとは
言えないまでもTwinmotionを使った動画を見せてくれる学生もいましたICTを自分の武器と
して使い込んでいる人でも次の選考は手描きの即日設計となります。とある先生から、未だ
に手描きの即日設計を課すのはどうなのか、と疑念を呈されたことが以前ありますがこれは
CGレンダリング全盛となっても変えられない慣習となりました一見きれいなポートフォリオ
が増えたため差を見るために手で描かせるという意地悪ともいえる理由です私もすでにオー
ルドタイプなのかもしれませんが、デジタルデザインに長けた人でも手を動かしてしっかり描
けるだろうという願望に近い想いはあります。
 
このような経緯を踏まえて入社した設計部社員の属性はかなり均質化されています。そして入
社後の社内教育を経ると更に思考まで同質化していくかもしれません。先日あった設計部内の
ディスカッションでもそれを感じました。周囲のみんなが感じている職場に対する不満や希望
はまったく同質といってよく、互いに考えていることは痛いほど分かります。では業務改善す
る方策を問われると未だに10年20年前と同じことを議論しているわけです。
 
白坂先生のDXを起こすためのアドバイスの一つが「箱の外を狙う」でした。均一な集団と多
様性のある集団を比較すると、均一な集団の方がパフォーマンスでは優れるものの、イノベー
ションの価値という点では多様性のある集団の方が優るという説明がありました。当たり前だ
と我々が信じてしまっている部分に疑問を持つことがイノベーションにおいて重要であり、非
専門家集団であるほうが価値の高いイノベーションが生まれる可能性があるらしいですが、社
内でその状況を構築するのは現時点で厳しそうです。ただオープンイノベーションはその助け
になるかもしれません。未来の建設業における正しい資質は未だわかりませんが、狙って戦略
的に外した思考を行いつつ、BIMに最適化したブレイクスルーを狙う感じでしょうか?

   Mercury 7 Astronauts, April 1959|NASA ⒸNASA/Langley Research Center
   ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のNASAのWebサイトへ
    リンクします。

   Mercury 7 Astronauts, April 1959|NASA ⒸNASA/Langley Research Center
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綱川 隆司 氏

前田建設工業 建築事業本部 設計戦略部長