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コラム

ビル・ゲイツの予言/Post COVID-19

2021.04.20

ArchiFuture's Eye               ARX建築研究所 松家 克

4月に入ると自由が丘駅の定期券売り場に長い行列が出来る。 今年も例年と同様に長い行列を
見かけたが、様子に若干の変化があった。全ての人がマスク姿で距離を空けて並んでいる。こ
の姿が異様ではないと思えるのも不思議だ。小生が関係している大学は、オンラインでの卒業
式と入学式を済ませ、やや落ち着きを見せ始めている。しかし、残念ながら未だ日本ではコロ
ナ禍が継続中。今、最大課題は今と今後に向かって何をするのかにある。そこで、昨年の変化
を振り返り今後を考えてみたい。
 
最初に、文芸春秋の2020年7月号によれば、マイクロソフト社の創業者の一人であるビル・ゲ
イツ氏は20年位前に、今後世界が直面する多くの死者を出す恐れは戦争ではなく感染症のパン
デミックと警告していた、という。
「もし今後数十年の間で1,000万人以上が死ぬことがあるとすれば、最も可能性が高いのは戦
争ではなく感染力の非常に高いウイルスだろう」「仮にスペイン風邪のような感染爆発が起こ
った場合、今は医療が進んでいるからそれほど深刻にならないと思うかもしれないが、世界が
密接に結びついた現代だからこそ、世界中の大都市に瞬く間に感染が拡がる」。まさに今日の
ような事態を“予言”していたのである。
ビル・ゲイツが共同議長を務める「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」は、20年以上に亘り感染症
対策に取り組んできた。その目的は、「検査の拡充」「接触者追跡」「治療薬の開発」だが、
なかでも力を注いでいるのは、「ワクチン開発」。通常、ワクチンの開発から普及までは、
「試作品開発、臨床試験、承認、製造工場建設、量産」という数年以上にわたるプロセスが必
要となる。だが、新型コロナウイルスに関して氏は「一刻を争う」として、この時間を少しで
も短縮するために大胆な行動に出た。「最終的には1つもしくは2つのワクチンを選ぶことにな
る」としつつも、それがどれになるか分からない段階で期待される7種類のワクチンへの投資
を決断したのだ、という。
 
前述のように、デジタル化の先鋒者であり大富豪のゲイツ氏は、ワクチンをより早期に開発す
る方法や、感染症を追跡するシステムの創設に何億ドルもの資金を今迄に投じてきた。ビル・
ゲイツの警告は、奇しくも日本のデジタル化への対応の遅れとワクチン開発と医療体制の課題
を浮き彫りにしたともいえる。敢えて言えば、今日の日本の遅れを取り戻すスタートラインが
見えたともいえる。
 
備忘録としてこのCOVID-19禍中の変化で気づいた事象や新聞記事、ニュースなどを思い出す
ままに挙げてみたい。
 
最初に浮かぶビジネスやデジタル関連では、テレワークの浸透によるジョブ型ワークと授業形
態の変化と前進がある。身近ではAIや3DとBIM化、VRの加速、在宅ワーク、リモート会議の
促進化と対応、集まり方の変化、雑談の重要性、勤務や飲み時間帯の形態変化、駅中や商業施
設とオフィスなどでの個室型シェア・オフィスの出現、長期滞在型テレワーク対応ホテル、終
電の繰り上げ、研修やイベントの変容、生まれ故郷の南紀白浜でも推進しているワケ―ション
と温泉、密を避ける好調なホンダジェットとレンタルビジネスジェット、DX化の加速と日米
格差の露呈、日本のノートPCの8年ぶりの最高出荷台数、コロナ対策に成功した台湾でのIT
系産業の46%増(2月)の史上最高売上、半導体の部品不足、スーパーコンピューター富岳の本
格的な運用開始、3次元地図情報の自動運転のバックアップ、各分野での無人化と各種ロボッ
ト開発や非接触決済の加速、オンラインでの遠隔診療や医療体系の見直し、新薬開発の推進、
第一三共製薬の国産ワクチンの開発と治験開始、100倍とも言われるサイバー攻撃の脅威増
大SDGs、D2C、クラウドファンディング、デジタル庁の設置、首里城公園デジタル復元プ
ロジェクト、ハプティックス、XR/AR/MRなどを思い浮かべる。
 
生活・旅行・遊び関連では、玄関の洗面や個別空間の重視、都心から郊外へなどのデュアルラ
イフ様式や生活環境と住まい方の変化、手の消毒・手洗・うがいと体温測定、ドラム式洗濯機
の売上増、巣ごもり、Uber Eats・出前館などの食事や食材の宅配、最高値となったジャガイ
モ価格、戸建のセルフ内見の日常化、首都圏マンション販売戸数の28年ぶりの3万戸割れと平
均価格の高騰、旅の楽しみ方の変化、身近で隠れた魅力に着目したマイクロツーリズムの進捗、
グランピング・キャンプ施設と温泉の人気度アップ、山の購買、飼育放棄のペット、家庭ごみ
の増加、キャンピングカーでの新形態の旅行や施設の充実化の加速、シネコンの変容、オンラ
イン婚活等のマッチングサービスの加速、イベント容態の変化と10万人が参加可能なVR+オ
ンラインゲーム、非対面サービスの加速、コンビニの無人化、翻訳機能や音声認識とストレス
チェック機能が内蔵されたスマートマスクの出現、マクドナルドの最高売上、病院や介護施設
の改善、図書館とギャラリイや美術館のオンライン化、授業形態の変化などがあり枚挙に暇が
ない。やっと動いた感がある全国460自治体で2020年11月に総合行政ネットワーク利用のテ
レワークのスタートなど、遅れていた行政の各分野でも加速度的な変化が見られるようだ。
 
最後に、東日本大震災で考え方や生活感に大きな変化があったように、コロナ禍で初老、壮年、
中堅、若手、各世代での価値観や生活様式、働き方の意識改革が絶えず進み、デジタル化やAI
の更なる進化など広範な分野でスピード感が増したようだ。人と集い雑談をする重要性や心情
の変化、健康と心のケアにも微妙に影響を及ぼしているとも感じている。建築のデザインにも
変化があるのではないだろうか。無力感に陥らなくスーパーポジティブに捉え、今一度、建築
や生活のデザインを見つめ直したい。一方でコロナ禍は日本の産業やデジタル系の転換期であ
り、中国の経済的・軍事的な台頭などと相俟って、結果、“コロナ後景気”が訪れるに違いない。
政治での大きな課題や各分野の貧弱さの改善、及び、教育制度も9月入学の検討が本格化するか
もしれない。
 
コラムをここ迄書いて、蔵相時に“貧乏人は麦を食え”と言った池田勇人首相が1960年に策定し
た所得倍増政策を何故か思い出した。感染症対策での政治的対応と混乱が記憶を呼び起こした
のかもしれない。野口悠紀雄著文芸春秋刊のリーブフロッグ(蛙跳び)によれば、歴史をひも
解くと、後から来たものが前の事象を飛び越える事例と国の制度改革が数多くあるという。大
きな転換期の日本は“Post COVID-19”に可能性があるとも言え、日本の“リーブフロッグ”を期
待している。
 
されど、コロナ禍であろうと地球は自転しながら太陽の周りを周回し、今までと変わらず陽光
の恩恵をこの地球環境に受け続けている。小生も運動量やウイスキーの量にも変化が無い。桜
や花や樹木も着実に次世代に生命を継続させ、美しい新緑や花と虫の春夏秋冬の変化を楽しま
せてくれている。感謝。

松家 克 氏

ARX建築研究所 代表