「丘」を実現した3Dの連携
2021.04.27
パラメトリック・ボイス 隈研吾建築都市設計事務所 名城俊樹
東京工業大学大岡山キャンパスの正門近くにデザインしたHisao & Hiroko Taki Plazaが昨年
末竣工した。
正門からキャンパスのシンボルである本館の時計塔への視線をさえぎらないよう、建物の過
半を地下に埋め、「丘」の建築とした。また、本建物の建設資金の寄附者である、ぐるなび
創業者・取締役会長である滝久雄氏の「留学生を大切にし、積極的な国際交流を図る施設を」
という思いのもと、内部には大きな吹き抜け空間を持ち、様々な交流が生まれやすい環境を
提供する建築とすることを意図している。
本建物の周辺には百年記念館、大学附属図書館が建ち、本館からのプロムナードとも近接す
ることから、建物の外形はこれらの要素から導かれる形で形作られ、これを丘状の建築とし
たことで、結果的に複雑な形状となった。
上記のように、大きな吹き抜けの建築であることから、屋内に露出する構造体は丘状の外観
がストレートに現れる。双曲面状の「丘」を支持する構造体の設計は困難を極めた。双曲面
支持する小梁と、それらと取り合う大梁が直行することで、複雑な高さ関係のズレが生まれ
ていた。
このコンセプトを実現するため、プロジェクトの最初期から3Dモデルと模型を往復しながら
設計を進めたが、現場に入ってもそれは継続された。
現場事務所には3D作図のオペレーターが常駐し、施工者も3Dを積極的に活用していた。特に
先述の「丘」を構成する梁の取り合い確認、及び複雑な配筋の処理を事前に確認することは
工程管理上も極めて重要で、意匠設計者、構造設計者、施工者がデータを交換しながら確認
を進めた。その結果、新型コロナウィルスの影響を受けながらも大きな遅延もなくプロジェ
クトを終了することができた。
また、現場で作成した3Dモデルをベースとして3Dプリンタで出力した模型は、設計者、施工
管理者、作業員が直感的に建物形状を理解することに非常に役立ち、光造形系の3Dプリンタ
を用いた半透明のモデルであったことから、諸々の構成の確認も容易であった。
その他、建物の過半を地下化したことによって、ゲリラ豪雨時に浸水被害が発生することが
想定されたことから、想定される最大雨量から各種の設計を行うだけではなく、施行時に3D
モデルを使ってシミュレーションを行い、問題が出そうな箇所を再確認した。このシミュレー
ションをベースに、鉄骨下地の配置やパラペットの最終検討等を行うことが出来た。
上記のように、本件では過去の現場ではなかった試みを行うことができたが、3Dで検討した
結果を現場とダイレクトの共有できたことも、複雑な形状の実現に大いに役立った。BIM元年
と言われた年から10年以上経ち、現場レベルにも着実に3Dによる検証が浸透していることを
感じられた。よりクオリティの高い建築を実現する環境が整ってきていることを嬉しく感じる
とともに、それをよりうまく活用できるように、我々も設計を行っていかなければならないと
感じたプロジェクトであった。