4月はデジファブフィーバー
2021.05.06
ArchiFuture's Eye 広島工業大学 杉田 宗
コロナへの心配が拭えない日々がつづきますが、今年度は例年通りのスケジュールで新学期を
スタートさせることが出来ました。広島工業大学では、オンラインで行える授業は積極的にオ
ンライン化が進み、対面授業とオンライン授業のハイブリッドな数週間が過ぎようとしていま
す。実際に実施して見えてくる課題も多いですが、昨年の100%オンライン授業に比べると、
学びの幅は広くなったように感じています。
そんな中、広島工業大学建築デザイン学科では、新3年生が残りの2年間を過ごす研究室に配属
される時期になりました。以前は、研究室の雰囲気や設備に慣れてもらうことを優先して、ゆっ
くりとゼミ活動や課題などに取り組むスタイルを取っていましたが、現在はどれだけ最初の1カ
月に詰め込めるかを見極めながら、とにかく学生たちが行動する4月を目指しています。今回は
まさにデジファブフィーバーと化した今年の4月についてご紹介します。
まずはじめはラフバラー大学とのオンラインワークショップ。杉田宗研究室では2018年より、
英国のラフバラー大学との国際ワークショップを実施してきましたが、今年はコロナの影響も
ありオンラインでの開催となりました。内容はこれまでと同様に、ラフバラー大学のキャンパ
ス内に設置するキオスクのデザインです。英語の苦手な学生にとってはハードルの高さばかり
が気がかりだったはずですが、新3年生にも声がけし5名ほどが参加しました。ワークショップ
は主にmiroとTeamsを使って進められましたが、改めてイギリスの学生のスピード感には驚か
されました。初日からどんどんとmiroのボード上に画像やスケッチ写真がアップされ、その上
にポストイットのコメントやスケッチが重ねられていく様子を眺めていると、本当にすごい時
代になったなと感じます。また、Teamsのチャットには翻訳機能がついているので、英語を
しゃべるだけでなく、日本語でチャットに書くことでコミュニケーションをとることもしてい
ました。色々なツールを使うことで言語の壁を越えていくことが出来るようになった今、海外
との関わり方にも色々な選択肢が増えているように思います。
最終的に5つのグループによる提案が揃い、京都大学の小見山陽介先生と東京大学の平野利樹
先生をゲストクリティークに招いて最終発表会を行いました。秋には広島で実際に建てること
を予定しており、その実現性も含めて実施案の選定を行いましたが、1週間のワークショップ
ではまだまだ検討すべき課題が多く、上位2案を選びもう1ラウンドブラッシュアップすること
になりました。広工大の学生たちにとっては、初めての国際ワークショップがオンラインだっ
たこともあり、これまでの想像とは異なる体験だったと思いますが、各自のデジタルスキルを
活かしながらグループワークに取り組むことで、ラフバラー大学などの学生から学ぶことが多
かったのではないかと思います。
ワークショップが終了した次の日から始動したのが4年生の1:100模型です。昨年の『デザイン
スタジオ』という授業で「ポスト・コロナの暮らしと仕事」をテーマに超高層ビルをデザイン
し3分の映像作品を制作しましたが、それを模型で再現するというのを4年生の最初の課題に設
定しました。アウトプットが映像作品であったこともあり、かなりぶっ飛んだデザインが多かっ
たですが、それをレーザーカッターやCNCを使ってどの様につくっていくかを考え、2mを超え
る巨大模型を1週間で完成させるという内容です。
例年はパビリオン制作を3年生の目玉にしていますが、今年はコロナの影響でパビリオンを作
る機会を作ることが出来ませんでした。今年はこの1:100模型が杉田宗研究室3年生の総括的
なアウトプットになることを目指しました。自立する模型にするために構造を見直したり、3D
モデルから効率的に加工ファイルを作る方法など、学生たちは模型として実現させるための検
討を重ね、最終的には5つの模型が完成しました。また、ここでは3年生が4年生のサポート役
として模型制作を手伝いました。実際に自分たちが機械を動かしながらデジタルファブリケー
ションに慣れると同時に、新しい縦の繋がりが形成されることを狙っています。
1:100模型の完成の翌日には、山根木材福山支店の木組み階段とパーティションの設置を行い
ました。これは昨年福岡支店の改修工事の際に設置した木組みシステムをバーションアップさ
せ、今回は①階段の構造に用いること、そして②個々で異なるパーツを組み合わせてグラデー
ショナルな模様を表現する、2つを目指して取り組みました。①に関しては、北九州市立大学の
藤田慎之輔先生に加わって頂き木組みの構造検討を進めました。階段としての強度だけでなく、
木組みのデザインと揃えた足元や手すりのディテールについてもアイデアを頂く事で、木組み
というシステムが立派な階段になることが出来ました。また検討を進める中で、もっと部材を
減らしても強度的には問題無い構造であることが分かったのは収穫で、今後のさらなる応用に
繋げたいと思っています。②に関しては、全ての部材の加工が異なり、加工データの作成に膨
大な時間がかかることがネックでした。そこでパターンの生成から、各部材のGコードの作成
までを行うプログラムを開発し、モデリングから加工までのプロセスの円滑化を図っています。
具体的には、部材の結合タイプなどを属性情報とした線モデルをRhino+GHで構築していき、
必要に応じてレンダリング用のソリッドモデルを作ったり、shopbotで加工するためのGコー
ドを書き出すような仕組みを考え、デジファブ用のBIMのようなモデリングを試してみました。
とは言いつつ、計画通りに加工された部材を現場に持ち込んでも、組立て始めたら色々な問題
が噴出します。部材が入らない所が出てきたり、高さが合わなかったりと、その都度解決方法
を考え対応していく力の重要性を再認識しました。現場監督や大工の助けによって、予定の
2日間で組み立てが完了しました。研究室としてこのような実物件に関わる機会は多くありま
せんが、日ごろ研究室で考えているコンピュテーショナルデザインやデジタルファブリケー
ションの可能性を実践的に形にしていくことは非常に重要だと考えています。私だけでなく、
ここに関わる全ての学生の意識変化に繋がっており、今後もこういった機会を大切にしていき
たいと思います。
最後は3年生の恒例課題となっている「ニューブリック」。GHで3Dパターンを考え、それを
コンクリートで作るレンガで再現し、1m×1mのパーティションを作るといった内容です。
GHの練習のような入口ですが、実際は型を作ってコンクリートを流し込んだり、1m×1mの
パーティションのためにレンガを量産したりするところが難関で、学生たちは失敗を重ねなが
ら自分がデザインしたものを実現するために試行錯誤を繰り返します。木材であればまだ馴染
みもありますが、コンクリートに触れたり、コンクリートが固まる様子を見たことがない学生
がほとんどなので、実際の材料に触れてその特性を知る機会になるとも思っています。
今年は昨年を超えるアウトプットで、年々レベルが上がっていることを感じます。ここには昨
年「ニューブリック」を体験した4年生のサポートも影響している様子で、すこしずつ縦の繋
がりが強くなりながら、研究室としての知識や経験の蓄積が継承されていく仕組みが生まれつ
つあることを実感しています。
4月は年度初めで新しい環境への慣れや適応が大切な時期ですが、同時にこの1年で超える
バーをどこに設定するのかが決まるタイミングだとも思います。研究室の学生たちには「4月
にはあれだけできたのだから、今月ももっとできるはず」と思ってもらいながら、実りある
1年を過ごしてもらいたいです。