「六種の神器」を持って街に出かけよう
2021.05.20
パラメトリック・ボイス
東京大学 / スタジオノラ 谷口 景一朗
新年度早々、2回にわたって建築情報学会チャンネルに登壇した。1回目はAMDlabの藤井章弘
氏、2回目はホロラボの伊藤武仙氏といずれも建築情報学界隈で大活躍されている方との対談
で、登壇した筆者自身も大変楽しい時間を過ごしたので、まだ視聴されていない方はお時間の
あるときにでも、ぜひアーカイブをのぞいてみていただきたい。
建築情報学会チャンネル 第19回 「谷口景一朗×藤井章弘」
建築情報学会チャンネル 第20回 「伊藤武仙×谷口景一朗」
さて、藤井さんとの対談の際にも話題に挙がったのだが、筆者はよく環境センサを持ち歩いて
いて、気になった場所での温湿度や風速、照度、放射環境などを測定している。これは、筆者
が専門とする環境シミュレーションによる解析結果が、その空間で実現される環境として相応
しいか否かを判断するためには、常日頃から自身をセンサとして働かせ、その時々のアクティ
ビティとその場での環境との適 / 不適の組合せをストックしておかなければならないと考えて
いるからである。同じ空気温度25℃、相対湿度50%、風速1.0m/sの空間でも、本を読んでい
るのか打合せをしているのか、あるいは軽く体を動かしているのかによって、その場で感じる
快適感は異なってくる。言葉で書けば当然のことだが、意外と上記の空間がいずれのアクティ
ビティに相応しいかと問われると、回答に困るのではないだろうか。もちろんPMV(予想平均
温冷感申告)やSET*(新標準有効温度)といったオーソライズされた快適性指標も存在するが、
直感的な判断として自身の体験のストックに勝るものはないのではないか。そんな想いで気に
なった場所でセンサの数値を確かめてみる、ということをなんとなくこれまで続けている。
こんな話をしていると、様々な機会に「どのようなセンサを持っているのか紹介してほしい」
と言われることが増えてきた。そこで、今回のコラムでは筆者が現在カバンにしのばせている
環境センサ(総称「六種の神器」)を紹介してみようと思う。もちろん、ここに記載するもの
以外にも同様のセンサは多く存在するので、参考程度にご覧いただきたい。
① 温湿度計(testo スマートプローブ 605i)
環境要素の基本である温湿度を計測するためのセンサ。Bluetooth通信により専用アプリを使
用してスマートフォンなどで測定値を確認したり、露点温度や湿球温度を自動演算してくれる
すぐれもの。
② 熱線風速計(testo スマートプローブ 405i)
風速、風温、風量を測定できるセンサ。①と同様にBluetooth通信により専用アプリによる表
示機能や演算機能を有する。特に空調吹出口の風速測定などに有効。
③ スマートフォン用赤外線カメラ(FLIR ONE Pro)
放射環境(表面温度)を測定するための赤外線カメラ。スマートフォンのコネクタに接続して
使用する。Pro版から解像度が大幅に改善された。
④ 照度計(HIOKI FT3424)
空間の明るさを示す照度を測定できるセンサ。暗い室内(0lx)から明るい屋外(200,000lx)
まで対応可能。タイマホールド機能もあるので、自身が影になることなく正確な値を測定でき
る。
⑤ 輝度表示アプリ(Aftab Luminance)
光源の明るさを示す輝度を測定できる輝度表示アプリ。校正機能も持つ本格派。残念ながら現
時点ではiPhoneアプリとしてのみの取り扱い。
⑥ 太陽軌道表示アプリ(Sun Seeker)
環境センサとは異なるが、現在位置での太陽軌道を表示するARアプリ。周辺建物などの関係か
らどの季節・時間帯に日射が当たるかを簡単に調査でき、敷地調査に有効。
思い返せば筆者が設計事務所で働き始めたとき、先輩の建築家に「常にコンベックスを持ち歩
くと良い」とアドバイスされた。気になる場所にコンベックスを当ててみて、寸法の身体感覚
を身につけなさい、というメッセージだったのだと理解している。もう10年以上も前のことに
なるが、このアドバイスはとても身に染みていて今でもカバンの中にはコンベックスが入って
いる。加えて、このコラムで紹介したような環境センサも持ち歩いているので、荷物が減らな
いわけである。皆さんも、いきなり全てとは言わないが、どれか気になったセンサを1つ手に
取ってみてはいかがでしょうか。
さあ環境の身体感覚を身につけるため、「六種の神器」を持って街に出かけ・・・いや、いま
しばらくの辛抱ですね。