デジタルとイノベーション
2021.06.10
パラメトリック・ボイス
アンズスタジオ / アットロボティクス 竹中司/岡部文岡部 ここ数年、最先端技術を駆使したイノベーションを支援するため、実証実験の場(街
や施設)を提供しようとする、地域に根ざした試みが活気を見せている。各地で見ら
れる大企業や自治体主導のイノベーションハブの取り組みもその一端だ。新たな挑戦
をキーワードに、産学連携や地域の産業と結びつけ、先鋭的な技術を育成する試みを
支援している。
竹中 例えば、昨年10月に一部がオープンした「HANEDA INNOVATION CITY」もその一例
だね。「先端モビリティ」「健康医療」「ロボティクス」の3つをキーワードに、訪れた
人がこれらを楽しく体験できるテーマパーク的な要素だけではなく、研究開発施設や
先端医療研究センターなどが同じ敷地内に併設されているところが特徴だ。
岡部 最新の技術だけを披露するのではなく、羽田周辺の町工場が育ててきた技術との連携
も取りやすい環境が提供されている。次世代の技術と、街が誇る卓越した技能を結び
つけることで、ローカルとグローバルの視点がうまく融合する― 言わばグローカルな
可能性を誘発しようとする試みだ。
竹中 神奈川県の「さがみロボット産業特区」も同様に、未来を担うロボット技術に着目し、
ロボット関連企業の誘致を促進することが目的だ。「さがみはら産業集積促進方策」
を策定し、企業の工場立地を支援しているプロジェクトである。
岡部 オフィスや研究所といった場所の提供だけではないようだね。事業支援、人材育成な
どによって、もともとさがみ地区が育ててきた技術との連携を図りながら「ロボット
と共生する社会」をテーマに、地域経済の活性化や雇用の創出を実践的に促進してゆ
く狙いだ。世界ではそんな流れが既にすっかり定着しているよね。
竹中 そうだね。スイス・イノベーション・パークなどを筆頭に、こうした手法が導いた多
くの成功事例がある。昨年の2020年、コロナ禍にもかかわらず、スイス連邦工科大学
チューリッヒ(ETH)から34社ものスピンオフ企業が設立されたというのだから驚き
だ。国や地域が育成してきた研究と、最前線のデジタル技術を組み合わせることで、
大きなイノベーションの波を起こそうとしているんだね。
岡部 地域産業と新しい技術を結びつけようとする試みは、決して真新しいものではない。
けれど、それが今になって活気を見せているというのは、やはり人工知能やロボットな
どのデジタル技術が、様々な分野と融合してイノベーションの潮流を巻き起こし始めて
いるからだね。
竹中 そうだね。計算機そしてコンピュータ誕生から、デジタル技術は進歩を繰り返しながら
少しずつ成熟してきた。そしてデジタル社会に必要不可欠な存在となった今、従来の
生活からデジタル技術を活用とした生活、遊び方、働き方へと変化し、日常が大きく
変わってきている。デジタル技術がもたらす変革は、様々な分野のテクノロジーと協奏
しながら、世界規模で新しい生活様式を創り出す。ローカルとインターナショナルを
許容するデジタル社会の実装実験がはじまっているのだ。