手帳とノートのデジアナ変遷
2021.07.01
パラメトリック・ボイス 前田建設工業 綱川隆司
テレワークやリモート会議に対応するためのオフィスレイアウト変更を控え、職場で身の回り
の整理を行っています。断捨離とは私がこの世で最も嫌悪する概念の一つですが、個人の資料
や持ち物は大幅に減らさなければならず、タイムリミットが近いので否応なしにモノを捨てな
ければなりません。大量の資料やソフトウェアのマニュアル関係に混じり、机の下の紙袋に大
量に手帳とノートがありました。かつて私は手帳術やノート術に関する出版物を読むのが大好
きであり、頑固に同じものを使い続けるというより、良いものを求めて短いサイクルで様々な
ものを試していました。紙の手帳から始まり、一度はデジタル(Personal Digital Assistant:
PDA)にしたものの、また紙に戻り、現在は紙を離れてデジタルに再移行と、若干とりとめの
ない変遷の話について少しお付き合いいただけると幸いです。
まずは何故「手帳術」的なものに興味を持っていたかですが、これは自分個人の業務効率化の
ために他なりません。効率良く仕事をこなすためにはルーティンで行う作業を常に見直すこと
が必要だと思います。自身のスケジュールの調整と数多くのTo Doリストになっているタスク
の管理がそれにあたります。それぞれのタスクには異なる締め切りがありますから、どこから
手を付けるか、優先順位が重要です。いまでも若い職員には「締め切りの順番を優先順位にす
るな」と指導しています。To Doリストはアナログではソート出来ませんが、仮に締め切りが
近い順に並べ替えが出来たら、上から順番に手をつけるのではなく、自身の知識と経験を基に
そのタスクを行うための時間と労力を見積もる必要があります。そのためにはカレンダーにタ
スクを載せて可能な限り俯瞰から見る必要がありました。
社会人になってから手帳の在り方は大きく変遷し、はじめの頃は胸ポケットに入るサイズで週
間バーチカルタイプのものを使っていましたが、先の理由で俯瞰してみるために市販の月間ブ
ロックタイプに変え、それでは1日のマスに予定が書ききれなくなったため、紙時代の最終段
階ではA3サイズの月間ブロックカレンダーをエクセルで自作し、1日のマス内で時間が分かる
程度の大きさを確保、これを折り込んでA4サイズで持ち運んでいました。リングファイルでこ
れを綴じておくのですが、必要に応じてそこから外して横並びにすることで数か月の期間を俯
瞰から見ることが出来ます。
20年くらい前に一度デジタルに浮気をし、PalmというPDAを使っていました。モノクロとカ
ラーと乗り継ぎましたが、また紙に戻りました。理由はいくつかありますが、画面の小ささと
解像度の問題でなかなか俯瞰から見る感覚になれなかったというのは大きいと思います。今の
スマートフォンくらいの解像度があれば違ったかもしれませんね。もう一つの理由としてはメ
モをとる機能のためだったと思います。手帳の役割としてはスケジュールの管理と日常的な業
務の中でのメモを残すことの二つがあります。Palmにもスタイラスペンはあって記入はできま
すが、なかなかこのフィーリングもしっくりこない。メモといっても会議中の備忘録だけでな
く、移動中などに計画のスケッチをすることも多く、当時のPalmではやれることに限界があり
ました。まだBIMなんて言葉は無かった時代で、それでも3D-CADを用いて社内ではデジタル
志向を突っ走っていたつもりではいましたが、クリーム色の無地の「ツバメノート」にブルー
グレーのインクを装填したLAMYで線を描くアナログの心地良さはデジタルでは得難いものが
ありました。
「ツバメノート」は割と長い期間愛用していましたが、アナログ時代の終盤は先ほどのA3サイ
ズの月間ブロックの折り込みと一緒にA4無地のルーズリーフを綴じこんで持ち歩くようになり
ました。当時はカバンから分厚いA4ファイル型のノートを出すと初めて見る方によく驚かれて
いたものです。長い年月を経てたどり着いた紙の月間ブロックカレンダーは2016年が最後とな
りました。ほぼそのタイミングで紙の手帳に別れを告げて、デジタルに移行しました。
それまでは個人での業務効率化の取組でしかありませんが、直近の5年間は会社がiPhoneと
iPadを配布し、メールとスケジューラーにOutlookを採用したことで組織の業務効率化へと大
きく変わりました。スケジュール管理で言えばOutlookは週間バーチカルも月間ブロックも表
示を切り替えるだけであり、かつ全社員の予定が確認できるという優れものです。電話をかけ
る前に先方が会議中か否か確認する習慣もついてきましたが、一方で自分の予定表の空きに会
議をブッキングされるので、何か集中して考えたいときなどはその時間をブロックしておかな
いと大変なことになります。このデジタルの改革がワーク・ライフ・バランスを問われる時代
で良かったとホッとしています。iPhone、iPad、PCと使用しているデバイス全てが同じアカ
ウントで動作しているので、オフィスにいても外部にいてもシームレスな使用感なのはテレ
ワークが普及した現在も大変便利です。iPad+Apple pencilのペンタブレット的な運用は、以
前とは比較にならないくらいフィーリングも改善され、業務でのメモやスケッチの類も使うよ
うになりましたが、それでもいつもLAMYの万年筆は持ち歩いているので適当に紙を見つけて
は書きなぐっている今日この頃です。
それではやはりBIMはデザインの領域では不要ではないか、と言われそうなので最後に別の画
像を入れておきます。書き溜めたノートやスケッチの類で実施にいたったものは意外と少なく、
実際に竣工した案件の多くがArchicad上でデザインされていたことに改めて気が付きました。
手描きをすっ飛ばしていきなり3Dで始めることがもっとも業務効率化になると気づいて、そ
れを自分の武器としてきたのでそれは当然といえば当然の結果です。