ブルガリア(2)木を編む
2021.07.15
パラメトリック・ボイス 隈研吾建築都市設計事務所 松長知宏
前回に引き続き、2年前にブルガリアを訪れたときの事をご紹介させていただきます。
ブルガリアの首都ソフィア市内には第二外国語として日本語を教える小学校まであるそうです。
そのくらい日本文化に対する注目度が高い国なので、在ブルガリア日本大使館では毎年秋に日
本文化月間と称した日本の文化にまつわる様々なイベントが企画されています。今回の隈の講
演についてもこの日本文化月間の中で行われることになりました。
実は日本を代表するような建築家がソフィアの建築大学で講演をしたことは過去にも何度か
あったそうです。
ただ、一度きりの限られた時間の中での講演ではどうしても一方向的になってしまいます。
せっかくの機会ですので、ワークショップのような形でブルガリアの建築学生さんたちと一緒
に何かを作り、そこで私たちのデザインの考え方を共有できないかと考えました。
予算も限られる中、まずは現地で手に入る素材探しから始めました。
5月の訪問時には緑がとても印象的でしたので、やはり個人的にも木材を使ってみたいという思
いがありました。
ブルガリア国内で建築に使う木材(品質の高いもの)はドイツから輸入しているものが多く、
純国産の木材についてはコンクリートの型枠に使うような品質の低いものしかない、という話
を山崎さんから伺いました。たしかに写真で確認する限りなかなか荒っぽい印象で、部材の寸法
にも相当ばらつきがありそうです。幸い今回はワークショップでの利用、パビリオンの製作なの
で、耐久性はそこまで必要ありません。値段を伺うと恐ろしいほど安く手に入ることがわかった
ので、その型枠材を使うことに決めました。
緻密で正確なコンピュテーショナルデザインを使って、生っぽくて荒々しい素材をどのように
扱うかに興味がありました。
質感も寸法もバラバラの素材達をどのようにまとめるかについては一つアイデアがありました。
それは穴を空ける、というものです。
外形はバラバラでも板に等間隔で穴を空ければその距離は正確です。
その穴の距離を拠り所にパラメータを設定して素材を扱うことを考えました。
一方、学生とのワークショップという前提から、木組のような精緻な加工は期待できなかった
ので、できるだけ簡易に、粗さを許容できるような構造を検討する必要がありました。
3Dモデル上で「粗さ」、というと単に「不正確なデータ」というような意味になってしまう
かもしれませんが、現実の世界の粗さは不正確なわけではありません。これは普段感じている
ことなのですが、特にパラメトリックモデリングを進めているとどうしてもその正確さ、緻密
さ故に現実の世界から離れてしまうように思っています。
そんな時に有効なのが模型です。
今回も実際に小さな模型をいくつもつくりながら、「木を編む」というコンセプトにたどり着
きました。
次回もこのワークショップで制作されたChamというパビリオンについてもう少しご紹介させ
ていただきたいと思います。