実装と整理、2対8の割合
2021.08.05
パラメトリック・ボイス GEL 石津優子
ArchiFuture Webに記事を書かせて頂けるようになってから、早くも4年が経とうとしていま
す。「プログラミングを⽤いた設計⼿法・建築⽣産」という最初の記事から⼀貫してこの分野
を仕事として続けてこれていることは、本当に感慨深いものがあります。「Parametric
Design with Grasshopper」という本を堀川淳⼀郎⽒と書いてから3刷発⾏され、多くの⼈た
ちにGrasshopperというグラフィカルコーディングの⽅法やパラメトリックデザインのレシピ
を提供することで、この分野の認知に少しでも貢献できたことは⾮常にうれしいことです。建
築デザインにおけるプログラミング関連の⽇本語の情報もかなり多くなってきました。ただ、
職能として私たちが仕事として⾏っていることが認知されているかというと、まだまだこれか
らだと感じています。今⽇は、私たちのような建築設計を直接するわけではないエンジニアが
どのように仕事をしていて、何を⼤事にするかを書いてみたいと思います。
プログラマと呼ばれることに⾃分の場合は少し違和感があります。なぜなら、決められた仕様
で書いていることがほとんどなく、ヒアリングをし、まずは何を依頼者が欲しいのかを整理す
るところから始まり、その中で⼿を動かしながらやってみて、作ったもので反応をみてみると
いう流動的なプロトタイピングを仕事にしているので、プログラマというよりはテクニカル
ディレクションをメインの仕事にしているからです。クライアントのそれぞれの困りごとに対
して、ツール化する可能性があるかをまず軽く実装しながら調査をし、可能性がある場合は、
プロジェクトに応じて開発の規模感をヒアリングし、予算感の中で、⾃動と⼿動の割合を調整
するような仕事をしています。グラフィカルコーディングやコーディングの実装能⼒をつける
ことも⼤切ですが、実際のプロジェクトで考えると、8割がヒアリングと整理や⽅向性の決定、
2割が実装という時間配分が多いです。プロジェクト成功、つまり実際に役立つためのツール
をつくるためにはヒアリングが最も重要だと位置付けています。もちろん、2割で実装するに
は速さが必要なので実装⼒も必要です。内容が建築なので、建築設計を日々仕事にしていない
私たちみたいなエンジニアは、まずは要望を理解するというところに時間を割き、その⼈がし
ている仕事を勉強し、背景知識をつけながら会話をすることを⼼掛けています。
グラフィカルコーディングやプログラムを書けることが特別な時代は終わりました。よく他の
⼈と違う能⼒をつけた⽅がいいからプログラミングを勉強したほうがいいですかと学⽣さんた
ちに聞かれることがありますが、私にとっては「⼈と違うこと」をしているつもりは全くなく、
⾃分の専⾨の中の「王道」をまだまだ実⼒を実装と整理、2対8の割合をさらに伸ばしたいと地
道に続けている感覚です。⼈と違うことを⽬指して何かをしたことはないかもしれません。で
は、何を⽬指しているのかというと「技術に誠実であること」だと思います。個⼈の実装⼒で
制約ができるだけないように、そしてエンジニアとして⾃分⾃⾝の仕事を振り返ったときに後
悔しないために誠実であるということです。誠実であるというのは、簡単ではありません。ソ
フトウェア選定などを例に挙げると、技術的にはこのソフトウェアを使うよりも違うソフト
ウェアを使う必要があっても忖度なしに意⾒を⾔えるというのは、どの組織に属していてもほ
とんどないかもしれません。
例えば、どんな仕事が⾟いか想像すると、⾃分は技術的な視点からよくないと予測していたの
に上⼿に意⾒を通せなかったために、その通りになったものを⽬の当たりして、そしてそれが
失敗ではなく成功として報告されていくような出来事に遭遇するときです。理想と現実はいつ
も違いますが、少しでも理想に近くなるように、その理想を共有できる仲間と理想に近づく仕
事をするためにこれからも少しずつ着実に進んでいきたいです。