“環境DX”を考える
2021.09.02
パラメトリック・ボイス 安井建築設計事務所 村松弘治
厳しい残暑が続いている。このところの気候は温暖化の影響なのだろう。9月になっても30℃
を超える日が当たり前になっている。加えて、多雨・豪雨、竜巻、台風など気象に絡む災害も
確実に増加しており、まさしく温暖化の影響が我々の生活に大きな影響を及ぼし始めている。
8月に公開されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書ではいくつかの
シミュレーションが示されているが、1850-1900年比/1.5℃以内に抑えることが社会の第一
の責務であるとも読み取れる。これは、全CO2排出量1/3の温暖化ガスを排出している建築関
連産業においても、2050年カーボンゼロ、ストック型社会への転換と、真にゼロエミッション
やカーボンゼロを着実に推し進めることを示唆もしている。一方でこういった環境負荷対策を
行いながら、人にとって快適な空間を如何に合理的につくれるかも同時に求められている。今
回は、最近の取り組みを交えながら、この実現方法について触れてみる(参照:コラム「“建築
DX”を考える」、コラム「環境とデジタルデザイン」)。
デジタルツインで解くWELL・バイオフィリア(2つのDX)
エネルギーを制御しながら、快適な空間、健康空間、効率的空間を如何につくりだすか?この
目標を定量・定性的に解かなければならない。これまで、グリーンアメニティという概念は
あっても、緑の存在とその効果を測定し、加えて人の感性を評価して空間に反映することは、
明確に実践されてこなかった。そこで、現在、初の試みではあるが、WELLとバイオフィリア
の仮空間を設定し、各シミュレーションを駆使し、デジタルツインで解いてみることにした。
ということで、複雑な要件設定と連携をクリアし、学術的エビデンスも加え、冒頭の社会課題
に応える2つのDX計画を紹介する〈結果は次々回ぐらいに・・・〉。
バイオフィリック×DX
植物の香りや殺菌・抗ウィルス効果は、人の感性(視覚、聴覚、触覚、臭覚)とマッチングし
ながら、快適、健康、安全、活動空間づくりにつなげられると考える。過去の空間アンケート
や生理量測定結果からもその効果は見込める。この理論を活用して、デジタルツインで解いて
みようという新しい試みだ。加えて、AIカメラやセンサーなどを組み合わせ、生理データを取
り込むことで、エネルギーロスをなくし、快適な空間づくりも可能にする。幸福度・健康度、
生産性、創造性を10~20%向上するとされているバイオフィリックデザインをDXで解くこと
をめざす。
WELL×DX
空気、水、光、温熱快適性、音、材料といったハードカテゴリと、栄養、運動、こころ、コ
ミュニティといったソフトカテゴリから成り立っているWELL(認証)は快適空間づくりの基
本的要素でもある(最近はこの要求がかなり増えている)。とりわけ、空気質、換気量の制御
と並び、PMV(Predicted Mean Vote)温熱快適さは重要であり、評価・分析には、これまで
培ってきたセンサーに加え、ウェアラブルデバイスで個々の快適さや健康状態を取り込み、分
析しながら空間をコントロールすることでは省エネルギー化にもつなげる。さらに、体内時計
調整にも役立つ自然採光やサーカディアンリズム照明は、健康と活力の場づくりには欠かせな
い機能でもあり、前述のバイオフィリック×DXのアウトプットとバランスを取りながら構築を
試みる。
人と自然がつながる環境建築へ
人にとって快適な環境づくりとは何か?さらに、温暖化ガスを制御し、脱炭素化のバランスを
取りながら実践するためにはどうすべきか。この目的達成のためには、既定の概念にとらわれ
ることなく新しい技術を試し、新エネルギー(H2)などへの知見も醸成し、高いパフォーマン
スを発揮することが肝要である。今回の2つのDXの試みは、それぞれを動かすOSの構築など解
決すべき多くの課題もあるが、この“DX統合”こそが社会課題解決の起点になりうると考える。
そして、“WELL・バイオフィリック×DX”は、Society5.0とBeyond SDGsを包含しつつ、与え
られた箱空間からの解放と、無駄を省きながら人が自由に、快適に活動する有機的空間づくり
への入り口にしたい。