リアルタイムレンダリングの可能性を体感
2021.10.01
パラメトリック・ボイス 隈研吾建築都市設計事務所 名城俊樹
先日、ある博物館のプロポーザルに参加した。
通常のプロポーザルと同様に提案書を提出し、ヒアリングが実施されるという流れの中で、
新型コロナウィルス感染拡大の折、今回のプロポーザルにおいてはヒアリングをオンラインで
行うことになった。
ヒアリングに使用するツールの設定が自由であったことから、当初は大きめの敷地模型を制作
することで敷地と建物の関係を示すことを考えていたが、オンラインでのヒアリングとなった
ことで、別の方法を考える必要があった。静止画による配置の説明では限界がある一方、当初
のように模型を作ってオンラインで説明しても興が削がれることを考慮した結果、シークエン
スを示すムービーを作成する方針とした。
通常、我々が3Dでしっかりとしたムービーを作成する場合、Autodesk 3ds Maxを使用してレ
ンダリングをかけていくが、ヒアリングをオンラインで行うことが決まったのが約1週間前。
社内のCGチームを動かすにも外注するにもあまりにも時間がなかったことから、通常はモデリ
ングにしか使用していないRhinocerosからEnscapeを使用して直接ムービーを出力せざるを得
なかった。
OpenGL及びVulkanをベースとし、GPUレンダリングに分類されるEnscapeは、ライティング
の正確性やガラスの反射の処理等にどうしても限界があることから、通常は3dsMaxに持って
いく前の確認のためにレンダリングを行う程度であったが、今回ムービー用に使ってみると、
樹木や人物等の点景の豊富さとモデルの軽さ、それをムービーに落とし込んだ際のモーション
について、良い意味で大きな驚きがあった。太陽、空、風などの自然条件も擬似的ではあるも
のの直感的に弄ることができることから、簡単に設定が出来、またモデルの軽さとソフトの特
性から、レンダリングもかなり早く終わった。4Kサイズで約90秒のムービーを出力したが、
7年近く前に発売されたエントリークラスのQuadroにも関わらず、70分程度でレンダリングが
終わった。仮にこのムービーを今までの方法で書き出していた場合、おそらく2日近くかかった
のではないかと思われる。
初めての作業ということもあり、作業開始から終了までに延べ日数で3日程度かかったが、通常
業務を終えた後の時間のみで上記の作業を終えられたのは自分でも相当驚いており、グラフィッ
クボードを使ったリアルタイムレンダリングを行うソフトの持つ大きな可能性を体感し、設計
者として極めて大きな武器になることを実感した。