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コラム

アメリカ建設産業におけるトヨタ生産方式とBIM

2015.11.26

パラメトリック・ボイス               芝浦工業大学 志手一哉

前回の投稿に続き、アメリカで得てきた情報を紹介したい。今回の舞台はサンフランシスコで
ある。サンフランシスコで我々は、メディカル関連の民間発注者2社と建設プロジェクトの発注
方式に関して意見交換する機会を得た。ここで驚いたことは、両社のプロジェクトマネジャー
から飛び出した次の言葉である。
「トヨタ生産方式(TOYOTA Production System)を知っているか?」

彼らは、トヨタ生産方式に倣った「リーン・コンストラクション(Lean Construction)」を
実践し、そのツールとして「大部屋(Big Room)」を強調する。発注者は大きな部屋を用意
して、設計事務所、ゼネコン、設備サブコン、特殊なサブコンの担当者を在籍させ、企画設計
から基本設計を共同で行う。基本設計が完成したらそこに参加者全員がサインをし、大部屋の
人数を200人程度に拡大して実施設計に入る。大部屋の主査(Syusya)は、通常、発注者側
のプロジェクトマネジャーが務めたり、ゼネコンの担当者が務めたりするが、設計フェーズに
応じて最も問題を抱えている分野の担当者(例えば、設備設計が佳境の時は設備サブコンの担
当者)を選任することもあり、柔軟に運用するそうである。

大部屋では、企画設計で構築した情報をその後の設計に反映しやすいのでBIMを導入している
と言う。意見交換した内の1社は、BIMに対応できることを条件としてゼネコンやサブコンを
選択していると話していた。また、大部屋方式では、ターゲットコストに向けて設計をする、
すなわちコスト情報を大部屋で共有するので、発注者とゼネコンの工事契約はコストプラス
フィーになるそうである。

2年ほど前に、あるソフトウエアベンダーから、アメリカでリーン・コンストラクションの取
り組みが広がっていると説明を聞いた。当時は、ゼネコンが実施設計以降の生産性向上を目的
に取り組んでいると解釈していたが、その解釈は間違っていたようである。リーン・コンスト
ラクションに取り組んでいたのは、発注者(正しくは、発注者側のプロジェクトマネジャー)
であり、その対象は企画設計に及んでいた。そして発注者は、リーン・コンストラクションを
実践するためのツールとして大部屋やBIMが有効であると考えている。こうした発注者のプロ
ジェクトに参加したい企業は、発注者の「プロジェクトを効率的に進めたい」という要求に応
えるために、BIMプロセスに関する高度なノウハウを身に付けなければならない。これほど明
快なBIMを導入する理由が他に存在するだろうか。

建設産業は、固体としての企業の集まりではなく、プロジェクトを基盤とした経済活動と認識
すべきという考え方もある。なぜならば、プロジェクトがあればこそ、専門知識やノウハウの
新しい組み合わせや連携パターンが生まれるからである*1*2。今回紹介した事例はかなり特
殊な事例なのかも知れない。だが、プロジェクトにおけるトップダウンが、建設産業に新しい
風を吹かせようとしていることは確かそうである。


*1  野城智也氏、「建築の組織論」、建築ものづくり論‐Architecture as “Architecture”、
    有斐閣、pp.445-478、2015
*2  Groak. S., “Is Construction an Industry? : Note towards a Greater Analytic
    Emphasis on External Linkages” Construction Management and Economics,
        Vol.12, No.4, pp.287-293, 1994

志手 一哉 氏

芝浦工業大学 建築学部  建築学科 教授