イノベーションの原動力
2021.11.16
パラメトリック・ボイス
アンズスタジオ / アットロボティクス 竹中司/岡部文岡部 写真の鳥は、なんの鳥だと思う?
実はこれ、本物の鳥ではなくて自律飛行ロボットなんだ。動画を見れば、その自然な
動きにさらに驚くだろう。
竹中 開発は、ドイツに本拠地を置くオートメーション分野のトップメーカー、FESTO社が
設立したBionic Learning Networkが手掛けている。「BionicSwift」という作品だね。
Bionic Learning Network は、FESTOと、大学機関、専門企業などが共同して進めて
いる研究ネットワークだ。自然の原理がテクノロジーへもたらす新しい可能性を探り、
生き物にヒントを得た技術を長年にわたり定期的に発表してきた。
岡部 BionicSwiftは、鳥の生態からヒントを得て作成された鳥型ロボットで、特徴は何と
言ってもその軽さだ。体長44.5センチ、羽を広げると68センチの大きさにもかかわら
ず、重量はなんとたったの42グラムという超軽量飛行物体なのだ。
竹中 軸となる部分はカーボン製。これに互いに重なり合いながら取り付けられている羽は、
軽量で柔軟性がありながら非常に頑丈な素材で、一枚一枚独立して動くように設計さ
れているという。
岡部 動きを作り出している関節構造は、実際の鳥を注意深く観察して再現されている。下
向きの動きでは一体となって空気を押し下げ、上向きに動く時はバラバラになって空
気抵抗を減らすのだ。この構造が、下降するときのしなやかな動きや、上昇するとき
の力強く優雅な動きを作り出しているね。
竹中 そうだね。さらには、複数羽のスワーム飛行も美しく再現されている。超広帯域技
術(UWB)を使用した無線を使い、複数羽で協調して飛行する。各BionicSwiftには、
信号を送信する無線マーカーが装備されていて、ここから送られ集められたデータを
ナビゲーションシステムとして機能するコンピューターに送信する。万が一、風や熱
などの影響で鳥が飛行経路から外れても、経路をすぐに修正し、動きを自律的に変化
させることが出来るのだ。
岡部 彼らのプロジェクトで注目すべきは、技術はもちろんのことながら、その開発の背景
だ。各界専門家をつなげたBionic Learning Networkのネットワークは、工場での生
産工程であるワークの把持、位置決め、搬送など、スマートファクトリーの実現を見
据え、これらすべてのタスクを本能的に実行している自然界に学ぶ。優雅に泳ぐ生き
物のような水中ロボットにはじまり、アリのようにスワームを組むもの、象の鼻のよ
うに滑らかに動くアーム、蝶のように自由に空を舞う動きなど、2006年から今まで
15年以上、継続的な開発を試みている。
竹中 これら実証実験的な開発に加え、その背後にあるBionics4Educationという教育的ア
プローチにも注目したい。Bionic Learning Networkで開発された最先端の技術をプ
ロトタイプ化し、これを教材キットとして展開している。子供たちは、自ら手を動か
して組み上げ、それらを体験的に動作させることで、未来の夢あるテクノロジーに触
れることができる。湧き上がる好奇心から、新しい才能を開花できるようプログラム
されているのだ。
次の時代を牽引するイノベーションとは、単に技術から生まれるものではない。若い
世代が、不完全ながらも夢ある教材から学び、その先にある技術の可能性を模索する。
この体験こそが、新しい時代を切り開く原動力になると確信している。