聞いてみた-Archi Future 2021講演会
2021.11.24
パラメトリック・ボイス 前田建設工業 綱川隆司
今年のArchi Futureもオンラインでの開催でした。昨年のコラムでも書きましたが私は「裏番
組も見たい派」なのでオンライン開催は歓迎です。地方と首都圏との地域間の格差も関係あり
ません。でもかつての有明会場の熱気も忘れられないですよね。昨年のコラムが好評であった
かどうかはわかりませんが、今年も講演会の内容を振り返ってみたいと思います。歳を重ねる
と記憶の定着が怪しくなってくるものですが、一度自分の言葉に置き換えてみるのは大事なこ
となので私の独白に少しお付き合いください。
■基調対談
「融合する素材とコンピュテーション」というタイトルで、建築家 でシュトゥットガルト大学
ICD教授のアキム・メンゲス氏と建築家でTAILAND主宰、隈研吾建築都市設計事務所にも在籍
のクマタイチ氏を招いて、池田 靖史氏の司会によるオープニングの基調対談です。
最初はクマ氏のプレゼンで始まりました。クマ氏はシュトゥットガルト大学留学時に
メンゲス氏の影響を受けたと言います。「素材とのインタラクションを意識すべき」として実
験的なパビリオンの紹介がありました。その形状のコントロールにデジタルファブリケーショ
ンを用いているのですが、普段見慣れている硬い素材ではなく、Spacer Fabricと呼ぶ柔らかで
軽やかなアウトプットは、その先に未だ私たちが見たことが無い新しい空間が生まれる可能性
を感じました。共感するのは手作りの模型がそのままスケールアップして建築になっていく感
覚でしょうか。私もセルフビルド大好きです。
次は録画でメンゲス氏のプレゼンです。研究室名のICDはInstitute for Computational Design
and Constructionの略です。冒頭「現状BIMは従来の設計手法をデジタルに焼き直ししただけ」
と耳が痛いお話でしたが、デザインとエンジニアリングを繋ぎ施工までをコンピュテーション
で結合する試みは、我々ゼネコンの目指すところでもあるので大変興味深く拝聴しました。
「少ない素材で様々な形をつくる」ため、ロボットアームで木パネルを加工しパビリオンを作る
話は、すぐにでも実践してみたいと思いました。興味を持ったのは加工するロボット自体をコン
テナで可搬式にしてサイトへ持ち込める形にしたことです。切削だけでなく組立作業もロボッ
トが行うのですが、プレファブリケーションの場所を選ぶことができるというのは価値がある
と思います。工事現場だけでなく、木材の流通上都合の良い場所を選べれば運搬時のCO2削減
も出来ます。木材の次は最も新しい建材としてファイバーコンポジット構造の話です。柔らか
い素材が樹脂によって固められると鉄のように強く超軽量ということで、デジタルファブリ
ケーションにより編み込まれた有機的な形状をもつ構造部材により出来上がった空間は、私の
想像を超越していました。メンゲス氏が「5年前ではできなかった」というコメントが取組の
先端性を端的に表していると思います。
■建築情報学会どうでSHOW
引き続き池田 靖史氏がコーディネーターとして参加、他のメンバーが伊藤 武仙氏(ホロラボ
Co-founder 取締役COO)、牛久 祥孝氏(オムロンサイニックエックス Principal Investigator /
Ridge-i 取締役 Chief Research Officer )、竹内 一生氏(ユニティ・テクノロジーズ・ジャパ
ン Advocate / 積木製作 Manager)という普通の建築の人がいないという意欲的なセッション
でした。「どうでSHOW」というコミカルなタイトルに乗せて、XR、ゲームエンジン、AIとサ
ブセッションに分かれており、サイバーとフィジカルを行ったり来たりするような内容でした。
内容は多岐にわたるので、ある意味目まぐるしいプレゼンなのですが、ともすれば言葉だけ上
滑りしてしまいそうなデジタルツインやAIを誰が実装していくのか、建設業の人材は多様性に
欠けているなあ、と私自身も感じていたので、建築情報学会が外から侵食して、硬直している
この業界を作り変えてくれる未来が予感出来る貴重な時間でした。
■アトリエ設計事務所のデジタル化の現場
金田 充弘氏がコーディネーターで奥村 禎三氏(シーラカンスK&H)、高井 壮一朗氏(NAP建
築設計事務所 執行役員 シニア・ディレクター)、本間 新太郎氏(藤本壮介建築設計事務所 東
京事務所統括)のお三方がそれぞれの事務所からリモートで参加されるというユニークなセッ
ションでした。事務所の様子をカメラで見せてもらいつつ、近作の紹介をしていただけるので、
バーチャルに事務所へ訪問した感覚でお話を聞けました。アトリエ事務所・デザイン事務所と
なると我々ゼネコンが取り組むBIMとは異なるデジタルデザインのアプローチもあるかと思い
ます。基調対談でも言われた通り、BIMはアナログな業務の進め方をデジタルに焼き直しした
感があります。「Rhinoceros+Grasshopperで形が変わった」という話が出ましたが、創造性
に寄与できて初めてデジタルデザインなのでしょう。「最初の一歩を踏み出せる出来る人がい
ること」が必要ともありましたが、デジタルネイティブの若い世代がこれからどんどん塗り替
えていって欲しいと思いました。
■生まれ変われるか、建築設計事務所
講演会の最後はコーディネーターに松村 秀一氏(東京大学 特任教授)、パネラーに
六鹿 正治氏(日本建築家協会 会長)、近角 真一氏(日本建築士会連合会 会長)、
児玉 耕二氏(日本建築士事務所協会連合会 会長)、池田 靖史氏(建築情報学会 会長)をお招
きした異色(選挙が近かったので政見放送が被りました・・・)のセッションでした。BIMや現
在のリモートワークに必要なICTリテラシー含めたデジタル化の波に乗り遅れを作らせない、
という意思をタイトルに感じます。また拝聴してSDGsや気候変動など世界規模の大きな社会
の変化の中で、設計事務所はこのままではいけないという危機感も感じました。先ほどのアト
リエ事務所のセッションにも通じますが、小規模設計事務所の在り方が日本の建築文化がどう
なっていくかのカギであると思います。オンラインで繋がることができるという共通体験を私
たちは図らずも持つことが出来たわけですが、これから複数の事務所が連携して大きな仕事に
あたるための環境の地ならしが出来たとも言え、これまで以上に大きな座組が可能かと思いま
す。その際に情報のプラットホームとしてBIMは有用だと思います。
全体を通しての感想ですが、昨年のコロナ禍で混乱した状況から、1年の間に環境は大きく変
化したと思いました。このイベントがオンライン開催を選択したように、私たちもこれから
様々な選択肢から選びながら仕事を進めていくはずで、その可能性を広げていくためにもアン
テナを高く張る必要性を感じた今年のArchi Future 2021でした。