建築BIMの時代16 ライフサイクルコンサルタント
2022.03.03
ArchiFuture's Eye 大成建設 猪里孝司
天皇誕生日の夜、偶然「すこぶるアガるビル」というNHKの番組を見た。パレスサイドビル、
日生劇場、京王プラザホテル、新宿三井ビルが登場し、それぞれの建築に込められた設計者の
想い、現在どのように使われているかが伝えられていた。林昌二さんのインタビュー映像も挟
み込まれて、大変説得力があった。パレスサイドビルの屋上庭園や新宿三井ビルの広場が、現
在でも多くの人に親しまれ利用されている様子が映し出されていた。恥ずかしながら、パレス
サイドビルの屋上に出られるのを知らなかった。早く訪れてみたいと思っている。
新宿三井ビルは私の職場の隣にあるので、広場はよく利用させていただいている。学生時代、
建築の雑誌で見てよくできた空間だと思っていたが、実際に使ってみてその感が一層強まった。
番組では、この広場の使われ方の一例として、入居するテナント対抗のカラオケ大会の様子が
紹介されていた。入居者同士の交流の一環とのことであるが、この広場、空間があるからこそ
の企画だと思った。
前回のコラムでも触れたが、国交省の建築BIM推進会議の中で、“ライフサイクルコンサルティ
ング”・“ライフサイクルコンサルタント”が話題の一つになっている。これまで明確になってこ
なかった業務・職能のため、共通の理解が得にくいためだと思う。「すこぶるアガるビル」を
見て、建築を上手に使い続けるためには、建築のライフサイクルにわたり建築に関わる人が必
要だとの思いが強まった。それがライフサイクルコンサルタントだと思っている。今のところ、
最初(企画段階)から最後(解体)まで関わっている可能性があるのは建築を建ててそれを使
う、または使ってもらおうとする人だけである。建築ライフサイクルのそれぞれの段階で、さ
まざまな専門性を持ったプレーヤーが登場するが、それぞれの専門性が高く、求められている
役割が異なるため各段階のプレーヤー間で情報が分断されており、情報の共有化に進んでいな
い。どのような情報をどのような形式で共有すべきかという共通認識もない。パレスサイドビ
ルや新宿三井ビルのように完成後何十年も経過し、なお活き活きと利用され続けるには設計者
の想いを理解し、その建築の状態を的確に把握し、その上で適切に運用するという多大な努力
が必要である。ライフサイクルコンサルタントがいなくても、関係している方々の熱い思いと
尽力で建築が活用され続けているわけだが、情報を引き継いでゆく、デジタル情報を活用する
ことで一層活用のレベルを上げるためには、ライフサイクルコンサルタントが必要だと思って
いる。
ライフサイクルコンサルタントは、建築のライフサイクルにわたってBIMおよびデジタル情報
を活用するために必要な職能とし提示されたと思う。ライフサイクルコンサルタントの登場に
よって、これまで以上に建築や都市が活き活きと利用されるようになることを祈っている。