Georgy Voronoy
2022.03.24
パラメトリック・ボイス
アンズスタジオ / アットロボティクス 竹中司/岡部文岡部 Georgy Voronoyという、現ウクライナ出身の数学者がいる。ウクライナのチェル
ニーヒウ州、ちょうどキエフの北側に位置する街で産まれた。彼の名前から察しがつ
くかとは思うが、先進建築学を学んでいる者であれば必ず目にしたことがある、あの
ボロノイ図の概念を定義した学者だね。
竹中 ボロノイ図という名前は後世の人がつけたものだけれど、その概念は
Georgy Voronoyによって1908年に定義された。ボロノイ図とは、ある平面上の任意
の位置に複数の点(母点)が与えられたとき、最も近い母点が同一となる領域を分割
した図のことを言う。建築の分野では、意匠だけではなく、構造、都市デザイン、さ
らには空間解析といった、私達に身近な分野でも広く使われ、とりわけコンピュテー
ショナルデザインの分野では、欠かせない手法だ。
岡部 その普遍的な魅力は、建築界において、しばし人工的なグリッドの概念と対比して語
られることが多いね。ウクライナでは、Voronoyの死後100周年を記念して記念の硬
貨が発行されており、そこには彼の顔とヒマワリの種の図が描かれているという。ヒ
マワリをはじめとし、キリンの模様、亀の甲羅など、自然に生成された様々な形の裏
には、Voronoyが定義したこの概念の明快な美しさが潜んでいるのだ。
竹中 そうだね、ものを均一な方向に導いてゆくグリッドに対して、ボロノイ図の領域の作
られ方には柔軟さがあるからだろう。NBF大崎ビル(旧ソニーシティ大崎)ランド
スケープや植栽計画の手法でも、重み付けされたボロノイが使われている。場所の特
徴が埋め込まれたポイントから、各植栽の持つテリトリーとこれに追随する植栽同士
の関係性を描く。そうして描かれた植物の「ネットワーク図」を用いてランドスケー
プのデザインが導かれている。
岡部 デザインの世界だけではない。最近では、移動型ロボットの経路計画(Path Planning)
のアルゴリズムに、ボロノイ図の概念が用いられることもある。ロボットと障害物の
間の距離を図りながら、自動運転をスムーズに行ってゆくために活用されている。
竹中 さらには、複数のロボット同士の、互いの経路計画などにもボロノイ図が用いられる
ことがある。刻々と変化する多様な環境情報をリアルタイムに扱いながらボロノイ図
を描き、移動体同士がお互いに干渉することなく最短距離で目的地にたどり着くため
のルートを導き出すのだ。
岡部 100年以上にわたり、これだけ多岐にわたる分野を横断する普遍的な概念になろうと
は、40歳という年齢で若くしてこの世を去ったVoronoy本人も、きっと予想だにして
いなかっただろう。
竹中 そうだね。自動運転や移動型ロボットが活躍する近い将来においても、彼の考え方が
都市空間を優しく包み込むだろう。彼の故郷でも、そんな未来の光景が描かれてゆく
ことを願ってやまない。