コンピュテーション現代建築史と開発者/BIM
コンサルタント
2022.04.05
パラメトリック・ボイス
コンピュテーショナルデザインスタジオATLV 杉原 聡以前「コンピュテーショナルデザインの源流と現在」と題したコラムを書いたが、それを拡大
した文脈でのコンピュテーション現代建築史の講義を、昨年12月に建築情報学会育成委員会
による講義シリーズSessionにおいて2回に分け行った。今回はその概要と、講義では時間の
関係で割愛した開発者/BIMコンサルタントの部分について記す。なお講義動画の前編は以下の
リンクから視聴でき、後編は建築情報学会員限定のアクセスとなっている。
建築情報学会育成委員会による講義シリーズSession
講義内容は、2003年のポンピドゥー・センターで催された「Architectures Non Standard」
展に出展した建築家を起点として、その師弟関係などで前後の世代を辿りつつ、設計手法や思
想・作風のクラスタごとに現在活躍する若手まで約100人の建築家を紹介するものである。
建築家と作品のリストは以下のMiroにまとめてあり講義後も公開している。そこに掲載されて
いる主要な建築家と15のクラスタは以下のようなものである。
主要な建築家と15のクラスタ
・脱構築主義建築家(Deconstructivist Architecture出展建築家)
Peter Eisenman, Bernard Tschumi, Zaha Hadid, Frank Gehry, Coop Himmelb(l)au,
Daniel Libeskind
・デジタル建築第1世代(Architectures Non Standard出展建築家)
Greg Lynn, Asymptote, Dagmar Richter, UN Studio, NOX, Servo, R&Sie, dECOi
Architects, Kas Oosterhuis, Objectile
・デジタル建築第2世代
Hernan Diaz Alonso, Tom Wiscombe, Marcelo Spena, Ali Rahim, Evan Douglis, Philippe
Rahm, Joseph Kosinski
・スクリプティング建築家
TheVeryMany, Kokkugia, EZCT, Matsys, Jenny Sabin, Axel Killian, Biothing,
Aranda¥Lasch, Panagiotis Michalatos+Sawako Kaijima, Stylianos Dritsas
・デジタル・ファブリケーション建築
Ball Nogues, Elena Manfordini, Florencia Pita, FreelandBuck, Open Source Architecture, Iwamoto Scott, Alvin Huan, Kory Bieg, Jason Kelly Johnson
・MIT/Harvardコンピュテーショナル・デザイン
Neri Oxman, Skyler Tibits, Nervous System, Kostas Terzidis, Andrew Witt
・ETHロボット建築/デジタル組積造/コンピュテーショナル・デザイン
Gramazio+Kohler, ROB Technologies, Stefana Parascho, Philippe Block, Matthias
Rippmann, Michael Hansmeyer, Pierre Cutellic
・シュツットガルト・ロボット建築
Achim Menges, Sean Ahlquist, Moritz Dorstelmann, Maria Yablonina
・3Dプリント・ファッション
Iris van Herpen, Daniel Widrig, Isaie Bloch, Julia Koerner, Philip Beesley, Behnaz Farahi
・ディスクリート派建築
Gilles Retsin, Manuel Jimenez Garcia, Jose Sanchez, Daniel Koehler, Christoph Klemmt
・コンピュテーション建築理論家(とAADRL)
Patrik Schumacher, Neil Leach, Theodore Spyropoulos
・開発者/ BIMコンサルタント
Robert Aish, Francis Aish, David Rutten, Daniel Piker, Clemens Preisinger, Case Inc.,
Syntegrate, Fabian Scheurer, Nathan Miller
・ロボット/デジタル・ファブリケーション・ベンチャー
AUAR, Nagami, AI Build, Automata, Arktura, Alastair Parvin, Alexis Roche, Andreas
Froech
・AI建築
Daniel Bolojan, Matias del Campo, Michael Casey Rehm
・オブジェクト指向存在論建築
David Ruy, Mark Foster Gage, MOS, Peter Trummer, Damjan Jovanovic, Niccolo Casas
これらの内、内容を詰め込みすぎた後編の講義では、開発者/ BIMコンサルタントの部分を話
す時間が足りなかったため、以下にその内容を記す。
Robert AishはイギリスのCAD開発者/研究者であり、2003年にリリースされたBentley
MicroStation上のパラメトリック・デザイン・ツールGenerative Componentsの開発者であ
る。筆者は、以前勤務していたMorphosis Architectsでの社内共通CADがMicroStationであり
当時MorphosisのITディレクターで後にDassault SystemesのVPを務めるMarty Doscherが
Generative Componentsを推進していたため、Generative Componentsのワークショップに
参加し、その際Aish氏がGenerative Componentsではグラフィック・ノードとテキスト・
コードが一対一対応しており、どちら片方を編集してももう片方が自動更新されて無矛盾に機
能することを誇らしげに語るのを聞き、コンピュータ・サイエンス的美意識を感じた。Aish氏
は後にAutodeskに移りDesignScriptを開発し、それはRevit Dynamoの根幹を成している。
またAish氏の息子であるFrancis AishはFoster + Partnersの研究開発部門長を務め建築技術業
界に多大な貢献を成している。
デルフト工科大学建築都市学科出身のDavid Ruttenにより2007年に開発されたGrasshopper
は業界標準のパラメトリック・デザイン・プラットフォームとなり、本講義の他のクラスタで
紹介したPanagiotis Michalatos+Sawako KaijimaやJason Kelly Johnsonを含む多くのコン
ピュテーショナル・デザイナー/建築家によりアドオンが開発され、Foster + Partnersに勤め
るDaniel Pikerは物理シミュレーション・アドオンKangarooを開発し、
Bollinger + Grohmannの構造エンジニアであるClemens Preisingerは構造計算アドオン
Karamba 3Dを開発した。
建築情報学会副会長も務めるnoiz architectsの豊田啓介氏が過去に在籍していたニューヨーク
のSHoP Architectsは今や超高層ビルやスタジアムを手掛ける大規模な設計事務所であるが、
共同創設者達はBernard Tschumiがデジタルによる建築教育改革を進めていた頃のコロンビア
大学の出身であり、その一人Gregg PasquarelliはGreg Lynnの最初期の実施プロジェクト
Korean Presbyterian Churchを現場の駐車場に寝泊まりして現場監督したと言う。2000年代
のSHoPは構造や設備、果てはディベロッパー機能までも内製化して統合による革新を積極的
に進めており、その設計技術部門の人らが後年独立して技術コンサルティングを行うCase Inc.
ができた。またCase Inc.にコンピュテーショナル・デザイン部門長として参加し、
GrasshopperのアドオンLunchBoxで知られるNathan Millerは、それ以前はロサンゼルス
NBBJのコンピュテーショナル・デザイン部門長を務めており、筆者が教えていた南カリフォ
ルニア建築大学での授業の期末発表審査員などもしばしばお願いしていた。Case Inc.はその後
2015年にWeWorkに買収されたが、Miller氏は独立し、RhinocerosとRevit間のデータの行き
来を容易にするConveyerなどを開発している。
1990年代に有機的な形態に移行していく際に建設の困難に直面したFrank Gehryは、MITの
William J. Mitchellにコンピューターの利用を促され、IBMに連絡することを勧められた。そ
こでIBMのCATIAスペシャリストであるRick Smithが迎えられ、Gehry事務所でCATIAの利用
が始まり、それによりバルセロナのEl Peix(魚)とビルバオ・グッゲンハイム美術館が建設され
た。その流れからCATIAを建築用に特化したソフトウェアであるDigital Projects(DP)が開発
され、その販売とコンサルティングを行うGehry Technologies(GT)が2002年に設立された。
CATIAの開発元であるDassault Systemesに後押しされたDPの販売であったがうまく行かず、
GoogleからSketchUpも買収したシリコンバレーのTrimble Inc.により、2014年にGTは買収
された。革新的なプロジェクトと技術に取り組み、技術力のある若い才能を引き寄せていた
GTだったが、その才能はその後独立して行き、その1人がGTの元研究部長で、先日の建築情
報学会年次学術交流大会ラウンド・テーブル・セッションで筆者が対談したハーバード大学
GSDのAndrew Wittである。またパリのGTヨーロッパ支部でルイ・ヴィトン財団美術館の建
設に従事したPierre Cutellicも独立して研究と教育に従事し、その頃筆者も参加してパリ・マ
ラケ国立建築大学で教えたり展覧会を行ったりした。Cutellic氏は現在はETHにて脳波による
建築設計の研究に従事している。また日本法人は渡邉健児氏に率いられ活発に活動している
SyntegrateもGT出身のLionel LambournとSeonwoo Kimにより2014年に設立された。筆者
がUCLA在学時に南カリフォルニア建築大学に在学していたLambourn氏は、Morphosis
ArchitectsがDPを導入した頃にGTで顧客への技術研修を担当しており、
建築情報学会チャンネルにも登場した石田靖氏と筆者はLambourn氏による研修を受けた。
スイスを拠点とするDesign-to-Productionは2007年にETH出身のFabian Scheurerと
シュツットガルト大出身のArnold Walzによって設立され、Zaha Hadid Architectsによる
Nordpark Railway Stationの複雑な形状の屋根の施工を手掛けた。2007年にインディアナポ
リスで開催されたシンポジウムManufacturing Material Effects: Rethinking Design and
Making in Architectureにて、Scheurer氏がデジタル・ファブリケーションによる施工を前提
とした複雑形状の効率的・合理的コンピューター・デザイン手法の講演をしており、同シンポ
ジウムで発表していた、効率化により設計の自由度を高めるために技術による内製化/統合を
進めるSHoP Architectsや、ETHでロボット・アームによるレンガ積みを始めた頃の
Gramazio + Kohler、シュツットガルト大にInstitute for Computational Designを設立する
直前のAchim Mengesらの講演と並んで、聴講した筆者に大きな衝撃を与えた。
以上がコンピュテーショナル現代建築史における開発者/BIMコンサルタントの部分である。他
の14のクラスタも興味深い建築家達で面白いエピソードが多くあり、ぜひ講義動画を視聴頂
けたらと思う。特にクラスタ10個分を1時間半に早口で詰め込んだ後編は建築情報学会員限
定アクセスではあるが、リーズナブルな学会費で他のSession動画や先日の年次学術大会のコン
テンツなどにもアクセスできるため、同学会員となって視聴頂けたら幸いである。