BIMについて一問一答
2022.04.19
パラメトリック・ボイス 前田建設工業 綱川隆司
4月になり当社の建築設計部門も大きな組織変更がありました。それに伴い業務分掌を整理し
ていましたが、これまで取り組んできたBIMについて今後はDXの一部として、より俯瞰から
捉える必要がありそうです。先日国交省のBIMガイドラインの第2版も公開され、まだ斜め読
みしか出来ていませんが、建物の維持管理段階への援用やライフサイクルを意識した広範囲で
の活用を視野に入れて纏められているように思えました。しかし異業種、特に製造業の方とお
話をしていると、建設業は依然として労働集約型に変わりないと感じてしまうことが未だに多
いです。「来たるべき未来」は解っているつもりが、不確実性の時代にあってその進むべき道
筋に焦点が合わせきれない、そんな状況でしょうか。
社外の特に組織設計事務所の方々とBIMについてディスカッションする機会が最近多かったの
ですが、「来たるべき未来」の認識にギャップを感じる場面もあり、自分自身の思考を一度整
理する意味で今回のコラムは書いてみました。一問一答形式ですが、質問者は不特定で立場も
異なる方々からなので前後の質問に繋がりが無いものがあります。回答はあくまで私の私見で
すので異論は認めます(笑)。
【問】
設計がBIMに取組むメリットはあるのですか?
【答】
発注者やエンドユーザーとの合意形成が正確に早期に実現します。ただしこの効果の度合いは、
発注者の意思決定の速度と物件の性質で異なります(あまりメリットを実感していない人が多
いのですね・・・)。
【問】
BIMに向いている建物のタイプはなんでしょうか?
【答】
BIMに向いていない物件は無いと思いますが、技術的に何らかの課題がある物件はBIMでやる
効果を感じやすいと思います。複雑な設備を伴う施設(研究施設・クリーンルーム等)や構造
的に特殊な施設(木造・免震等)はBIMの効果が高いと思います。
【問】
BIMは、CADによる実施設計図の完了後に対応した方が良いと考えていますがいかがですか?
【答】
その場合はヴァーチャルコンストラクションとしての効果は期待できますが、従来の設計の工
数にBIMの工程が単純に増になります。生産性の面からはおすすめ出来ないのと、本来設計期
間中に生まれたはずの「BIMによる気付き」がタイミング的に活かせないのが勿体無いです。
【問】
特記仕様書含め一部図面は2次元CADの方が効率が良いと考えています。
設計図において、BIMとCADの併用についてはいかがですか?
【答】
CADで済ませることが出来る部分は併用で良いと思います。
2D-CADのレガシーである部分詳細図や、設計方針を定めるために先行して作成する矩計図は
CADが早ければそれで良いと思います。ただしBIMで得られる断面とCADとを重ねてチェック
するのは行った方が良いです。
表物や特記仕様書とかCADでやりたがる人は多いですが、面積表や建具表はBIMの方が得意で
すし、全部BIM側に集約した方が出力やデータ管理面でもメリットはあると思います。
【問】
施工BIMを作製する際、設計BIMからどのように活用をされていますか?
【答】
設計BIMは施工BIMを構築する際にその一部として流用出来ると思います。
設計BIMはジェネリックオブジェクトを基本としたデータです。
それを下敷きに施工BIMでメーカーオブジェクト、サブコンやファブのBIMデータへ置き換え
る流れだと思います(理想的には設計BIMは最後残らないくらい置き換えてもらっていいと思
います)。
【問】
設計業務を発注する際の仕様書で、BIMの使用をLODの指定等どのような内容が記載されてい
ることが望ましいですか?
【答】
BIMの運用に関しての約束事となりますと、仕様書や特記で一方向的に指示するよりも、
発注側と請負側と双方で実施内容を協議した上でBIM実施計画書(BEP)にまとめるべきかと
思います。従って仕様書や特記の中で、「BEPを作成し発注者側と合意すること」と謳うのが
よろしいかと思います。
BIMの作成範囲やLODについては発注者側の思いがあれば記すべきだと思います。
例えば、防災設備やメンテを要す設備など竣工後に重視する部分が特にあれば明記するのもよ
ろしいかと思います。
LODについては提出すべきマイルストーンと合わせて、例えば「着工前にLOD300レベルで仮
想竣工」など具体的に示すのも良いかもしれません。
ただし注意が必要なのは、データの密度をいたずらに大きくすると受領してもハンドリング出
来ないケースがあります。物件の大きさによりますが、フロア別に分割したデータ要求するな
ど、実際の利用イメージを持つべきかと思います。
【問】
BIMを用いた施工を求める場合、どのような内容を記載すべきでしょうか?
【答】
やはり協議の上でBEPに集約すべきかと思います。
発注者側に分離工事がある場合は、当該の建築工事分をどのようなデータ形式で受領したいの
かを指定するか、工事範囲外も全て含めて請負社側に「BIM調整会議」を行わせるか二者択一
でしょう。竣工時に竣工図と同内容の竣工BIMデータを「他の施工会社が活用できる形での納
品」が期待されます。BIMツールのネイティブデータと合わせてIFCファイルの提出をさせる
のがよろしいかと思います。
一問一答はここまでです。多くの方が「BIMを構築するのは労力がかかる」と思っており、入
力は一度切りで「データはいろんな目的に流用したい」という考えのようです。またBIMを入
力するのは恐らく専業のオペレーター若しくは社外にアウトソーシングすることを前提として
いるようです。
BIMに長く携わった立場から申し上げると、BIMとCADの併用は本来必要ないです。2D図面の
アウトプット含めてBIMで描けますので、設計者の皆さんはCADは捨ててBIMに移行して欲し
いと思います。未だにCADが残っており、2D作業の後工程でBIMをやろうとしているとしたら、
それは生産性向上とは逆行する行為なので見直しをすべきであり、人材の職能の上でも無駄に
思えます。ただし、いきなりBIMで始めるのではなく、事前に設計方針を固めることの重要性
を考えています。つまりスペックライターの職能が確立されるべきです。その中には先の一問
一答の中でも触れている特記仕様や仕上げ等の表物が含まれますし、仕様を策定する上では部
分詳細や矩計のスケッチも必要かもしれません。
これまでの仕事の進め方に無理やりBIMや3次元のソリューションを載っけるのではなく、デ
ザインの非言語の領域や属人的であった品質的な暗黙知の部分をまずは言語化し、そこにデジ
タルデザインのソリューションを当て込んでいく、それが私が目指すべき建築設計における
DXのアプローチではないか、と今回のコラムを書いていて気付きました。
【問】
それを推し進めるために、業界の足並みが揃うのを待つべきなのか否か?
これに誰か答えていただけませんか?