情報に価値があるってどういうこと?
2022.05.24
パラメトリック・ボイス
スターツコーポレーション / Unique Works 関戸博高
言葉というものは不思議なものだ。普段気にもしないで使っている言葉が、何かの拍子で意味
が分からなくなることがある。この言葉はこの場面でこう使って良いのだろうか、と疑いだす
と切りがなくなる。うまく説明できないが、その分からなさは、もちろん辞書やインターネッ
トで調べれば分かるという類のことではない。
先日BIM-EC(BIMデータを使った商取引)について考えていた時にこの症状(?)が出た。
「情報に価値がある」とよく言われるが、その場合の「情報」や「価値」とは一体何だろうか
と。どのような構造と内容を持った「情報」であれば、「価値」として認識されるのだろうか、
等々といった具合の七面倒くさい思考に陥ってしまった。そういう時は、それぞれの言葉を分
解して、その分からなさの要素をひとつずつ潰していくしかないと経験は教えてくれるのだが、
厄介ではある。
「価値」には「使用価値」と「交換価値」があるが、技術者集団の日本の建設業界においては、
BIMデータの「使用価値」を自社内で磨くことはしているが、「交換価値」を高めることにつ
いては、まだあまり戦略的に手を打ってきていない。その結果、「情報に価値がある」という
テーマを考えようとしても、全体の半分ぐらいが芒洋としたままだ。ただBIM-ECの取り組み
が上手くいけば、BIMデータを商品などに置き換えることでお金にするという「交換価値」を
発現させる仕組なので、BIM(情報)の「価値」と言う言葉の分からなさは、多少解消できそ
うだ。
理屈っぽい話をしてきたが、ここでBIM-ECコンソーシアムの現状をいくつかピックアップ
してお知らせしておきたい(代表幹事を務めているので広報も兼ねて)。
1.この4月から5期目に入り、会員について従来の原則一業種1社、計14社の方針を変え、業
種を増やしそれぞれを複数企業の構成とすることにした。結果現時点で合計31社の会員数に
なった。
設計事務所 2社
ゼネコン 7社
設備サブコン 7社
メーカー 8社
商社 3社
その他 4社(金融、電力、調査、ソフトウエア)
規模的な言い方をすると、参加ゼネコン及び設備サブコンの完成工事高は計3兆円弱になり、
スーパーゼネコンひとつ半程度の規模になる。この会員規模は近い将来、BIM-ECのシステム
を利用する人達の扱い量の大きさを意味するので重要である。
2.BIM-ECを会員企業が協力して実現する過程(勉強会や分科会への参加など)で生まれる、
企業の枠を超えた人的ネットワークの強化や参加者を起点とした<BIM-IT>リテラシーの向
上は大いに期待できる。各社に散らばっている技術者個人の知見を集合知として活かせるな
ら、これは業界的にとても良いことだと思っている。
3.会員数を増やしたもう一つの理由は、今期よりBIM-ECのためのソフト開発に入るためで
ある。裾野広く役立つものにするために、各企業の仕事のやり方を調べ、ソフト開発に必
要な要件を共に整備し、実際に使って確認してもらう為である。
4.今期どうしても越えなければならない重要課題は、<分類コード>の扱いである。冒頭で
述べた「情報に価値がある」とは何かという疑問への回答のキーになるのが、この<分類コー
ド>問題だ。BIMの「情報」は分類コードを付与されることによって構造化され、お金に置き
換えられる情報として、マーケットに登場できるようになるからだ。だが、BIM-ECで使える
包括的な日本製の分類コードは残念ながら無いため、英国・米国のそれを活用することになる
だろう。現在研究中である。
5.今期後半に予定しているのが、ソフト開発に入るためのPoC(Proof of Concept:実現可
能性検証)である。この一連のソフト開発において予想される困難さは、専門人材の不足にあ
る。何故なら建設業の商取引やBIMのことが理解できる人と、ソフト開発やデータベースの専
門知識がある人による混合チームが必要になるからだ。読者の皆さんに自薦他薦してもらえる
と有り難い。
6.今回会員募集に当たって、経営者やBIMの責任者にお会いした。その時感じたのは、設立
以来4年間で、日本の建設業界がBIMへの理解を含め随分と変わったということだ。逆から言
えば、変わらざるを得なかったからだが、その分次の時代への積極的な取り組みを渇望してい
ることを感じた。他方で「うちはまだBIMをそこまで使えていないので」と、辞退する会社も
あったのも事実だ。そういう会社の経営者には、「情報に価値がある」という場合の「交換価
値」、つまりオープン・マインドが求められているのだということに早く気付いてもらいたい。
コンソーシアムとしては、今期9月末で50社の会員数にする予定だ。もちろん数が目的では
ないが、更に進めていくためには、この程度の存在感は必要だと思っている。
最後に、BIM-ECは商取引そのものであり、BIMデータをお金の流れに乗せて流通させること
でもある。現状は積算が終わった後、個別企業内で死蔵されがちなBIMデータを、商品の注文
や決済という企業間取引に使えるデータとして、つまり商品の「交換価値」をサポートする情
報として活かす試みである。もちろんFM(ファシリティ・マネジメント)にも活かせ、近い
将来、金融決済や建材の搬送搬入のためのデータとして使われるようになるはずだ。少し先
走って言うと、その先にあるのは、商習慣、法律、請負契約方式、企業・組織のありよう、教
育等々の見直しになるだろう。
読者の皆さんが所属する企業は、果たしてどのような考えを持っているのだろうか。いずれ社
会現象となる大きなうねりを企業内で共有されることを心より願っている。