未来のシナリオ
2022.06.21
パラメトリック・ボイス
アンズスタジオ / アットロボティクス 竹中司/岡部文岡部 先月末、ロボット工学と自動化に関する国際会議International Conference on
Robotics and Automation(ICRA 2022)で、掃除機でその名が知れている電気機
器メーカー、ダイソン(dyson)が、イギリス最大規模かつ最先端のロボットリサー
チセンターを設立することを発表した。目的はホームロボティクスの開発だ。
竹中 掃除、洗濯、炊事といった家庭用ロボットの研究を目的に、今年中にさらに250人も
のロボットエンジニアを募集しているそうだね。20年ほど前からロボットエンジニア
を育ててきたダイソンが、掃除機ロボットにとどまることなく、さらなるお手伝いロ
ボットの開発に本気だ。世界中でロボット技術の取り組みが活発になってきたね。
岡部 この発表と同時に公開されたダイソンのPVには、丁寧にお皿を片付けたり、きっちり
と食器を並べたり、やさしく人形を片付ける様々なロボットハンドの様子がうつし出
されている。今はまだ実験段階だけれど、彼らの目的はもちろん実用化。常に10年後
の未来を見ているという。
竹中 家庭用ロボットとなると、実用化の鍵となるのは、各家庭の異なる環境状況をリアル
タイムに把握する技術と、これに柔軟に適応する技術の開発だね。常に変化する家具
や食器の配置、形や素材などに対応してロボットの動きをどのように追随して変化さ
せるかが重要なポイントとなる。ダイソンは、そんな変容する環境情報をいかにして
翻訳するかについて、Perception labと呼ばれているラボで研究中だという。
岡部 センサー、熱画像(サーマルイメージング)、カメラを使って、家具などの配置デー
タを含めた周囲の環境情報を3次元で再現し、物にぶつかることなく動き回ることが
できるビジョンシステムを開発中だ。ロボット掃除機用に開発してきた360度カメラ
の技術などを応用し、逆に、このロボットの頭脳となる部分の研究成果を他の製品に
も利用してゆくという。
竹中 さらに、ロボットハンドにダイソンの掃除機を装着し、床だけではなく、立体的なソ
ファ形状にぴったり沿うようにして掃除するロボットの様子も公開されたね。これも
興味深い応用事例だ。
岡部 家庭用ロボットがあたりまえの未来になれば、自ずと建築空間に求められるものにも
大きな変化が生まれるだろう。極端に言えば、台所に立つ必要もなくなってしまうか
もしれないね。
竹中 さあ10年後、皆さんはどんな生活が想像できるだろうか。ロボットテクノロジーがも
たらす変化は、着実に新しい生活様式の可能性を模索し始めている。暮らし方や働き
方を読み解きながら、固定概念にとらわれず、未来のシナリオを描く格好の時期だと
感じている。