BIMにおける分類体系の利用
2022.06.28
パラメトリック・ボイス 芝浦工業大学 志手一哉
BIMのデータは、意外と整理されていない。BIMオブジェクトに様々な属性情報を入れていて
も、そのデータを効率よく活用するには工夫や手間が必要である。例えば、何の工夫もせずに、
柱、梁、床などの建物要素の数量を集計しようとした場合、それらの要素を入力したコマンド
のカテゴリごとにBIMオブジェクトがリストアップされる(図1の左)。しかし、数量を積算す
る立場からしてみれば、下部構造、上部構造、内装、外装など、建物のどの部分にどのBIMオ
ブジェクトが含まれるのかが仕分けられていないと困る。また、基礎梁の一部、床段差の立ち
上がり、パラペットなどを壁のコマンドで入力し、それらの数量を基礎梁、床、屋根として拾
いたいこともある。あるいは、防水層の入力に壁や床のコマンドを利用することも少なくない。
その場合も防水層としてBIMデータを仕分けしたい。このような仕分けをしやすくする工夫と
して、BIMオブジェクトの名称を工夫することが考えられる。ただし、「基礎柱_500x500」
「柱_500x500」のように名前をつけたとしても、それが下部構造であるか上部構造であるか
を自動で仕分けるには、「基礎柱は下部構造である」「柱は上部構造である」というような判
断をする簡単なプログラミングが必要である。何某かのプログラムを組んだとしても、BIMオ
ブジェクトの命名規則を策定し、それを業界全体で遵守しなくては機能しない。そのほかにも、
BIMオブジェクトの属性情報に、「地下」「地上」など、BIMオブジェクトを仕分けるための
キーワードを付ける方法もある。ただしこのキーワードは階層化されていないので、多様な切
り口でデータを仕分けするためにはキーワードをハッシュタグ的にいくつも付けることになる。
BIMオブジェクトを効率よく仕分けることができれば、それらが保持する有益なデータをもっ
と便利に活用しようとする機運が高まるのではないだろうか。そのために利用するのが分類体
系である。
以前のコラムで紹介した分類体系を入力したBIMデータ(図2)を用い、国際標準的な分類体
系のひとつであるUniclassの使った仕分けの例を説明する。このBIMデータは、全てのBIMオ
ブジェクトに「EF Element/Function」「Ss Systems」の番号を入力してある。EFであれば
2階層、Ssであれば4階層の番号を入力するのがセオリーである。その番号の1階層目を利用し
て、BIMデータを部分別内訳に沿ってかつ効率的に仕分けることができる。
EF_20は構造エレメント(躯体)、その下層であるEF_20_05は下部構造(基礎躯体・地下躯
体)、EF_20_10は上部構造(地上躯体)の分類である。図3は、柱のBIMオブジェクトを
EF_20:構造エレメント(躯体)でフィルタリングした上で、EF_20_05:下部構造(基礎躯
体・地下躯体)とEF_20_10:上部構造(地上躯体)でグルーピングしてBIMオブジェクトを
リストアップした状態をあらわしている。
図4は、壁のBIMオブジェクトを仕分けた例である。Ss_25:壁システム、壁コマンドで入力
したSs_32:防湿、防水、石膏仕上げシステム、Ss_15:土工、修復、仮設システムが混在し
た状態から、Ss_25:壁システムをフィルタリングしようとしている場面である。壁の内部と
外部のグルーピングはIfcPropertySetの「IsExternal」パラメータ、躯体と仕上のグルーピン
グはEFの番号をキーとしている。
ここまで仕分けた状態で、Ssの4階層目の分類名称とIfcPropertySetのパラメータを参照すれ
ば、各オブジェクトすなわち建物要素の工事仕様を検討しやすい。将来的には、CDEなどをプ
ラットフォームとして、BIMオブジェクトと、別途用意した仕様書、Webベースのカタログ/
施工単価/コスト情報などをリンクやAPIで連携すれば、ようやくBIMデータで、BIMワーク
フローの業務区分のS3からS5にかけての精緻で効率的なコストマネジメントができると思う。
そこに一足飛びに到達することはできないので、先ずは分類体系でBIMデータの仕分けをしな
くてはならない。
階層化された体系でBIMデータを仕分けることは、それを人が見て理解しやすくなるだけでは
なく、コンピュータも異なるデータ群間でオブジェクトと実体の同一性を推論しやすくなる。
セマンティック技術において、異なるデータ群間を効率よくリンクさせるにはクラス分類が重
要で、その体系が共通化されていれば、様々な属性を持つBIMオブジェクトを介したクエリと
実物の関係付けを実現しやすくなる。
先日、日本建築積算協会からUniclass日本語翻訳版の検索Webシステムが公開されたようであ
る。整然とした階層の分類体系を日本語で利用できることの波及効果は計り知れない。この
Web検索システムを覗いてみると、各項目により良い意訳の提案を投稿するオープンコミュニ
ティ的な機能が備わっている。ボランティア精神で日本語翻訳版を成長させ、使えるものに育
ててくことで、巡り巡って自分によい報いが来るのである。