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コラム

Art Future 2022

2022.07.07

ArchiFuture's Eye               ARX建築研究所 松家 克

前回コラムの「今、NFTが熱い!!」でデジタルとアートの事例を記述し、以前の「アート
思考
」で、その重要性に触れ、「1% for Arts」で各国のアートの文化度を記したが、デジタ
ル化が進む今、敢えて再度、アートをテーマに書き留めたい。
元々、古代から建築物とアートは密接にコラボレートを続け、人の営みや文化はアートと切っ
ても切れない関係にある。経済との関わりよりも深くて永い。この環境の中で、日本が政治や
経済面でもアート・デザイン重視の方向を打ち出し始めた。今までは縁遠かったアートをデジ
タル化の進化と歩調を合せ、ビジネス展開に結び付ける企業や街づくりとのコラボ事例も増え
ている。その幾つかを調べて見た。日経産業新聞や朝日新聞、SNS、各社のホームページ、
ウィキペディアなどの記事や情報を参考に書き進める。
 
最初はANAとアート。このコロナのパンデミックでANAなど航空界の経営状態が悪化する
と想定された。この環境下でANAグループは、コロナ後のニューノーマル生活への幾つかの
新対応に加え、弾力性を秘めてアートでの顧客開拓とマーケットの拡大を狙っているようだ。
塩尻市や島根、広島の地域に一定期間アーティストが滞在し作品を制作。この作品展示会を交
流起点としている。これをリードするイノベーション・デザイナーの田辺佳奈美氏は、空港が
無くANAと縁の薄い地域でも展開させ、地域外の人的交流で新たな価値の創出を狙いとし、
新事業が生まれることやANAのブランド力向上とファンが育成されることを期待していると
いう。併せ、スマホで分身のアバターを操作し仮想空間の京都などで異色の観光を楽しむ事業
も動き出している。

片やJR東日本は、QRコードとスマホを利用してアーティストと人を結ぶ高田馬場駅のギャ
ラリーや上野駅連絡通路でのアート展示山手線の電車内中吊広告部で11人のアーティストの
作品を発表し、eコマースで購入できるなどアートでの展開を図っている。この売上げはアー
ティストに還元されるという。併せ、北陸地方の越後湯沢と新潟とを最高時速210kmで結ぶ
「E3系」を改造した世界唯一で魅力満載の美術館仕様の現代美術を展示する新幹線があった。
現美のロゴの新鮮見溢れた外観は、写真家・映画監督の蜷川実花氏が列車自体をキャンバスと
見立て「長岡の花火」を素材とし演出していた。残念ながら老朽化もあり今は走っていない。
この新幹線が走った新潟は2000年から多くの美大生も参加している「大地の芸術祭 越後
妻有アートトリエンナーレ」を開催している。

街づくりでは、四国地方の松山市道後で温泉とアートを組み合わせた「道後オンセナート
2022」が4年ぶりの4月28日に開幕し、2023年2月26日迄開催される。現美新幹線と同じく
蜷川実花氏が約230点の花の写真を用いた大規模な初の野外床面でのインスタレーシンが
外湯に囲まれた石畳後温泉別館飛鳥乃湯泉中庭「ハダカヒロバ」で展開されている。併せて、
温泉地区エリアでアーティスト26組48作品を展示中だという。

他方、東北地方の庄内地域は日本有数の穀倉地帯として知られ、米生産が盛んな平野。この地
の“ヤマガタデザイン”が、今、注目を集めている。山中大介氏がリードし街づくりを進めてい
るが、ビジネスの柱は建築家坂茂氏が初めて手がけたホテルで、2018年9月にオープンした
「スイデンテラス」である。名の通り水田の水面のなかに建てられたデザイン性抜群のホテル。
建物が水面に映る姿は創造性溢れキリットした絶景といえる。「アソビバ」「ツクルバ」の空
間が設けられ、遊戯や工作なども楽しめる。総工費のうち1億円は市から補助を受けたという。
日経産業新聞によれば、当初、この穀倉地帯の田圃の真中にリゾートホテルを造ってもビジネ
ス的には成立しない、との強い意見もあったという山中氏は“ワクワクできる街をデザインす
る”との確固たる思いで、庄内地方に特化する転職求人サイト“ショウナイズカン”や子どもが核
の“教育・遊技施設“キッズドームソライ”地域の若手農家グループと提携した有機栽培“もうか
る農業”などを庄内地域内で多様化させ展開中である。

古都京都にはアートホテル“BnA(ビーエヌエー) Alter(オルター) Museum(ミュージアム)”での16人のアーティストが手
掛けた31の宿泊室の事例がある。宿泊がアートとのワークショップ体験ともいえる。宿泊料の
一部がアーティストに還元されており利用者のアートワークへの参加意識も芽生えるのではな
いだろうか。朝日新聞によれば、京都は、このようなアートホテルが点在しているという。町
屋を改装し、初期コンセプトが“展覧会に泊る”としてスタートし、複合施設に転化した
kumagusuku(クマグスク)”や現代アートのコレクターの住まい風にした“node(ノード) hotel(ホテル)”な
どがある。
北の北海道の旭川市では、デザインをベースに“存在感溢れる市”を目指し取り組みが始まって
いるという。

次に、BtoBが主業務の住友商事は一般の人との接点が少ない。そこで、アートを媒介として
住友商事を一般の人に伝えブランド力を高めたいとの目的で、社内起業制度で発案されたアイ
ディアを基に、アートプラットフォーム及びアートコンサル事業を展開するザ・チェーン
ミュージアム(TCM)へ出資し、さまざまな領域で「アート」を通じた感性にアプローチする
事業を展開して行くという。寺田倉庫もアートとビジネスのコラボに積極的に動いている。

建築関連では、戸田建設の京橋の本社で2019年から始めた一連のアート活動が目新しい。
京橋エリアのアーティゾン美術館などとの連携も視野に入れ、本社ビルでアートを不動産の付
加価値を高める目的に活用していくという。
戸田建設のホームページを一部借りれば“新社屋は、若手芸術家の作品制作を支援する創作・
交流施設。ここでの作品を国内外に発信する情報発信施設を整備し、次世代を担う若手芸術家
の育成基盤を提供。さらに、次世代芸術家とオフィスワーカーとの交流イベントや一般向けの
創作活動を支援し、より多くの人々の次なる活動を促進。多世代に向けた芸術文化の変革を促
進する環境を創出する。”とある。プロジェクト推進部長の小林彩子氏は、解体前の本社ビル
でのアートイベントは、普段は参加が見込まれない若者や外国人が多く訪れ、アートイベント
の可能性を感じたという。24年完成を目指す28階建ての新本社は、アート展示や音楽に
5フロアを充て、イベントホールとラウンジも併設。建設中の仮囲いには公募した若手のアー
ト作品を飾る計画だともいう。

仮囲いで思い出したが、1980年代前半にホンダ青山本社の工事が始まった。この時の工事
用仮囲いに、半開きや全開のシャッター越しに車やオートバイが見え隠れする“騙し絵”を美大
生に描いてもらった。当時に仮囲いでの類例は少なく、流行通信などの雑誌やメディアが採り
あげてくれた。殺伐とした感もある建設現場に新風を吹かせ、仮囲いに描かれたトリッキーな
絵は、自宅のメイン玄関をトリックアートで描き、来客の戸惑いを誘うようなシニカルなデザ
インで著名だったグラフィックデザイナーの福田繁雄氏が講演会で面白い事例として採りあげ
てくれた。今では、フォトリックアート専門のイベントホールや多くの美術館もある。
 
創作活動であるアートは、時代と共に変化する。デジタル化が急速に進む実感として身近な
アーティストが、全世界参加型NFTアートアワード『XANALIA NFTART AWARDS 2021』で
特別賞を受賞した。
BIMなどを駆使したNFTアート3次元も想定されるが、デジタルによるアート・イノベー
ションが、粛々かつドラスティックに進行しているようだ。

 ⒸFancy Free
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のWikipediaへリンクします。

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松家 克 氏

ARX建築研究所 代表