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コラム

例えばRPAでデータ活用の小さな成功事例実現へ

2022.07.26

パラメトリック・ボイス                  日本設計 吉原和正

前回のコラムでも少し触れさせて頂きましたが、5月末に(一社)日本空調衛生工事業協会の総
会でのBIM基調講演でお話しさせて頂きました。
 
BIMの本質を理解した上で、単なるBIM化に留まらない、その先の「DATA」活用に向けた取
り組みの重要性をお話ししてきましたが、さて、どこまで伝わったのかは何とも言えない状況
です。あるべき姿と実務のギャップはまだまだ根深く、BIMを普及・浸透させていくためには、
誰もが実現できそうな小さな成功事例を示していくことが重要なのだと改めて実感した次第で
す。
一部では理解が深まって来ている実感もありますが、もうしばらくは、小さな成功事例の具体
化と、地道な普及活動を両輪で回していく必要がありそうです。


BIMの仕組みを理解し始めると、色んなことが自動化できるのではないかと期待しはじめ、
BIMで完全自動化の仕組みを構築しようとしがちです。
完全自動化を実現するには、コンピューターが認識可能な状態でデータ入力されている必要が
ありますが、そのトリガーとなるデータを全てBIMに入れておくのは、それはそれで不合理
だったりしますので、多少は人の手を介在させた「半自動化」の仕組みの構築で留めておくべ
きだと思っています。
 
例えば、設備の設計業務のうち、建築の部屋を元にした、室諸元の設定や、換気計算、エアバ
ランスの調整、熱負荷計算といったものは、BIMのスペース(空間要素)に情報入力する類のも
のですが、作業目的が別々のものなので仕組みも分けて構築しておく方が使いやすかったりし
ます。その次の段階の、スペース(空間要素)の条件から定まる設備機器の能力選定、そして、
静圧計算も加えた上で、メーカーのラインナップから設備機器の番手や消費電力、騒音値など
のデータを反映する段階でも、やはり別々の仕組みにしておく方が扱いやすいです。これらを
一気に完全自動化することも不可能ではないと思いますが、途中途中で、人の確認や判断も必
要になってくるので、仕組みとしては細切れにしておいた方が実務には馴染むと思われます。
 
ただ、実際にこの仕組みが構築できて、複数の半自動化されたツール群が乱立すると、それは
それで、同じような繰り返し作業に辟易してきたりもします。
そこで、最近流行っているローコードプログラミングの例えば「Power Automate」のよう
なRPA(Robotic Process Automation)を使って、これらの作業を統合して自動化する取り
組みを行なってみたりしています。
 
設計業務は、定型化可能な部分もなくはないのですが、建物用途やプロジェクトの与件によっ
て考え方や検討の流れが異なる場合もあり、大掛かりなソフト開発はそぐわないため、ユー
ザー自らがある程度触れて、カスタマイズ可能なこの程度の仕組みで実現した方がしっくりく
る気がしています。
もし、この仕組みが一般化して、効果が見込めそうであれば、その時にはじめて、本格的なソ
フト開発に進めば良いと思っています。
 
実際、設備分野では既に、各社がメーカーサイトにて機器選定する仕組みを提供しているとこ
ろもあるので、そういうものは有効活用すべきです。このメーカーサイトの仕組みにRPAを
使って繋いであげれば、BIM上で整理した機器必要能力をもとに、RPAで必要情報を、メー
カーサイトの機器選定の仕組みに書き込んで、その結果を取得してBIMデータに書き込むと
いったことも可能になります。


このように、RPAを使うことで、比較的簡単に、BIMとメーカーサイトなどの外部データとを
連携した仕組みを構築していくことができたりします。

また、BIMのデータをPowerBIなどを使ってダッシュボード化する取り組みも、色んなところ
で行われ始めています。下記は、BIMプロジェクトのモデル進捗状況を管理するためのダッ
シュボードになりますが、このような取り組みをきっかけに、BIMのデータ活用の具体化をは
かっていければと思っているところです。


BIMで全てを実現しようとするのではなく、RPAのような仕組みも取り込みながら、外部デー
タとの連携も行い、データ活用の小さな成功事例を積み重ねていくことが、これから目指して
いくべき道であると思っている今日この頃です。

吉原 和正 氏

日本設計 情報システムデザイン部 生産系マネジメントグループ長 兼 設計技術部 BIM支援グループ長