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コラム

エンジニアリングによる建築進化サイクル

2022.08.09

パラメトリック・ボイス
                     東京大学 / スタジオノラ 谷口 景一朗


最近、環境エンジニアリングあるいは環境シミュレーション界隈が賑やかである。
5月には筆者も共著者として名を連ねている書籍「光・熱・気流 環境シミュレーションを活か
した建築デザイン手法
(脇坂圭一:編著、建築技術)」が出版された。筆者以外にも多くの建
築家・環境エンジニア・研究者が建築・環境・シミュレーションについて今考えることを語り、
その実践例を紹介した書籍である。同時期には、本Webサイトのコラムでも著者の川島範久氏
から充実した紹介があた「環境シミレーシン建築デザイン実践ガイドブ(川島範久:
著、彰国社)
」も出版されている。さらには、6月からはTOTOギャラリー・間にて末光弘和+
末光陽子/SUEP.の展覧会「Harvest in Architecture 自然を受け入れるかたち」が9月11日ま
での期間で開催をされており、それにあわせて2冊の書籍「開放系の建築環境デザイン: 自然
を受け入れる設計手法
(末光弘和+末光陽子/SUEP.:著、学芸出版社)」と
SUEP. 10 Stories of Architecture on Earth 末光弘和+末光陽子 / SUEP.建築作品集(末光
弘和+末光陽子/SUEP.:著、TOTO出版)
」が出版されるとともに、これらの展覧会や書籍に
関連した講演会やトークイベント等がいくつも開催されている。筆者も先日川島氏とともに建
築情報学会 Meet Up Vol.5「環境」に登壇させていただいた。このような盛り上がりの中で多
くの方、特に学生の皆さんに環境エンジニアリングに興味を持ってもらえればうれしい限りで
ある。

 本屋で平積みされる環境エンジニア/環境シミュレーション関連の書籍

 本屋で平積みされる環境エンジニア/環境シミュレーション関連の書籍


環境シミュレーションは温熱環境や風環境、光環境といった目には見えない建築空間を取り巻
く環境要素を可視化することで、建築デザインをより良いものにディベロップさせる強力な
ツールである。さらには、可視化されることによって、建築家と環境エンジニア、あるいは施
主と建築家のコミュニケーションが促進される可能性を持つことも重要な点である。しかし、
そのためには環境シミュレーションによる検証と建築デザインへのフィードバックを丁寧に、
かつ繰り返し行う必要がある。一度の環境シミュレーションによる検証で建築デザインを決定
してはならない。建築設計による生成(つくる)と環境シミュレーションによる評価(えらぶ)
によって構成されるサイクル(建築進化サイクル)を何度も回すこと、すなわち環境シミュ
レーションと建築デザインとの間を何度も横断することで初めて環境シミュレーションを用い
たエンジニアリングによって建築デザインは進化する。さらには、このサイクルの中で選択す
るパラメータの種類やその順序によって、当然最終的な建築デザインは変化する。このパラ
メータの選択、すなわちパラメータ・デザインこそがエンジニアリングに問われる重要な要素
であると筆者は考える。

しかし、この方法論はなかなか体系化しづらい。そこで、先々月に高木秀太氏・古市渉平氏と
ともにエンジニアリングによる創作活動を追体験できる「生成+評価」ワークショップを企画
開催した。学生たちが構造・環境・デジタル技術を駆使して建築デザインを探求する様子をま
とめた動画作品は先月から東京大学駒場博物館ほかで開催されている東京大学建築構成材デザ
イン工学(AGC旭硝子)寄付講座完結展「森に棲む月に棲む建築構造デザイン」
にて展示されい
ている。こちらも会期は9月11日まで。構造家・佐藤淳先生の研究室が探求してきた、極細・
極薄の建築構造デザインの原寸大モックアップやスケッチが会場に所狭しと並ぶ展覧会なので、
ぜひ多くの方にご覧いただきたい。

建築家と構造エンジニアの協働とは異なり、建築家と環境エンジニア(ここでは設備設計者と
は異なる職能を指す)の協働はまだまだ黎明期である。その環境エンジニアリングの魅力を紹
介した書籍やイベントが、偶然にも今夏には目白押しである。ぜひ多くの方にその可能性の
一端に触れていただきたい。

      生成(つくる)と評価(えらぶ)による建築進化サイクル

      生成(つくる)と評価(えらぶ)による建築進化サイクル

谷口 景一朗 氏

東京大学大学院 特任准教授 / スタジオノラ 共同主宰