ファッションと建築
2022.09.29
パラメトリック・ボイス 隈研吾建築都市設計事務所 松長知宏
今回は前回同様LIXILギャラリー(残念ながら現在は閉廊)での展示「クリエイションの未来
展」についてご紹介したいと思います。
毎年様々なジャンルの専門家やアーティストとのコラボレーションにより行ってきた展覧会で
すが、2019年の展示で協働したのはファッションデザイナーの森永邦彦さんとミュージシャン
の山口一郎さんでした。
音楽とファッションと建築が一体となったような展示にしたい、という思いから始まり様々な
アイデアがたくさん議論されましたが、どれも大掛かりなギミックが必要で予算がかかりすぎ
てしまうことからなかなか実現可能なアイデアにたどり着けずにいました。
議論を重ねる中で、ギミックに頼らず、純粋に建築のような大きなサイズのドレスが空間を包
んでいるアイデアが生まれました。
しかし部屋ほどの大きさのある大きなドレスを作るとしてもかなりの面積の「布」が必要なこ
とからこれも予算上制限がありました。
建築サイドで何か面白い素材がないか探し回っていたところたまたま見つけたのが養生シート
でした。
養生シートというドレスとはほぼ無縁の素材、通常であれば「養生」という一時的な目的のた
めに使い捨てられる素材を使うことになりました。
ここでもファッションと建築をつないでくれたのがプリーツでした。
ヒダを作ることで構造となり、それがドレスのプリーツにつながっていきます。
当時はまだMarvelous Designerなどのソフトウェアは使い始めたばかりだったのですが、
このアイデアを強力に進めてくれたのはCGのおかげだったかもしれません。
建築の世界では模型やモックアップも多く作られます。一方ファッションの世界ではモック
アップ1:1=実物、という感覚なのではないでしょうか。さすがに部屋くらいの大きなモッ
クアップを作るのは大変なので、試作品を作る代わりに3DCGでアイデアをシェアできたのは
大変効果的でした。
このプロジェクトで個人的に一番興味深かったのが、施工のプロセスです。
壁、天井を隈事務所、マネキン側のドレスをAnrealageが担当したのですが、型紙を作って養
生シートを切っていく様はまさに洋服作りのようでした。
開場直前まで、まさにパリコレのバックステージさながらの緊張感でAnrealageのスタッフと
一緒に準備を進めました。
建築よりもさらに人間に近いシェルターである衣服というものについて、実際に手作業で作り
上げることで、一般の建築とは違うその柔らかさ、優しさのようなものを体験できたように思
います。
その後森永さんとはAnrealageのコレクションHOMEで再度コラボすることになります。
また、つい先日花器「つみ花」というプロダクトもリリースされました。