「建築情報学」による建築学領域の横断、その第一歩
2022.10.18
パラメトリック・ボイス
東京大学 / スタジオノラ 谷口 景一朗
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻の教育研究活動を、「建築情報学」の視点から見つめ
なおすことを目的としたシンポジウム「東京大学建築情報学シンポジウム」が10月に開催さ
れている。東京大学の本郷キャンパス・駒場キャンパス・柏キャンパスに在籍するほぼすべて
の建築系教員が一堂に会し、合計6つのセッションにわかれてそれぞれの研究分野と建築情報
学との関係をショートプレゼンテーションした上で、パネルディスカッションを行うこのシン
ポジウムは、少なくとも筆者の記憶の中では同大学院において同様のイベントが試みられたこ
とはなく、そういった点でもとても画期的なものとなっている。すでに第1回は10月1日(土)
に実施され、筆者もsession 2「デジタル・クリエイティビティ」の会に登壇をした。計画・
構造・環境といった従来の建築学領域を超えて、いずれのセッションにも各領域からまんべん
なく教員が参加するスタイルとなっており、筆者が登壇したセッションでも、筆者のほかにま
ちづくり/構造形態学/コンクリート工学/環境心理の各先生が登壇をされていた。各研究分野
の発表内容そのものが実は普段には網羅的に拝聴する機会が我々教員でも限られていることも
あり、とても興味深いものであった。
その後のディスカッションでは、時間が限られていたこともありお互いの研究分野の中で興味
のある事象をコメントしあうところで時間切れとなってしまったが、それでもそれぞれの研究
を自らの研究分野に引き寄せて共通点を探ろうとする試みは、非常に有意義なものであったと
思う。とはいえ、このシンポジウムは「建築情報学」が既存の建築学の枠組みの分野横断的な
存在となるための第一歩としてのイベントである。引き続き、今回の討論を踏まえて教員間で
の議論が進み、例えば共通のパラメータを多角的・多義的に各領域から見つめ、そこに存在す
る価値を共有していくような試みができれば、真の意味で建築情報学が各領域の横刺し的役割
を果たすことができるようになるのではないか。そんな期待を大きく抱く機会となった。
シンポジウムの第2回は10月22日(土)に実施される。予定されている残り3つのセッション
の題目と登壇者は以下の通り。
session 4「デジタル・サスティナビリティ」
BIMのような建築の情報モデル化の普及によって、資源とエネルギーの合理的利用と循環と
いう重要な課題について、人間の社会と経済の情報システムの側面からも取り組むことが期
待されている。建築と都市の情報化は人類の持続可能性にどう貢献するのか?
パネリスト:野城智也(プロジェクト・マネジメント学)、藤田香織(伝統的木造建築)、
清家剛(環境空間情報学)、林憲吾(建築史)、前真之(サスティナブル建築)、
小渕祐介(建築設計)
ファシリテーター:大月敏雄(住宅計画)
session 5「デジタル・レジティマシー」
建築に関する情報伝達の転換は、建築設計・生産・運用の業務の流れから組織や体制の変
革、さらには経済システムや、社会制度に至る大きな革新の原動力でもある。しかしそのた
めには新たな状況を人々が受け入れられる正当性が不可欠でもある。デジタル化された建築
情報を扱う社会規範はどうあるべきか?
パネリスト:和泉洋人(住宅・都市政策)、豊田啓介(コモングラウンド学)、
権藤智之(建築生産)、川添善行(建築設計学)、松田雄二(建築計画学)
ファシリテーター:松村秀一(建築構法)
session 6「デジタル・プリディクタビリティ」
複雑で予測困難な現象を細分化して再現する手法は、計算速度の大幅な向上と視覚化ツール
の洗練によって、建築の性能や価値を動的な情報として理解させることを可能にしている。
さらなるシミュレーションの進化と建築設計への貢献の可能性はどこにあるのか?
パネリスト:坂本慎一(環境音響工学)、山田哲(建築構造学)、大岡龍三(都市エネル
ギー工学)、伊山潤(耐震工学)、本間健太郎(空間デザイン数理)、佐藤淳(構造設計法)
ファシリテーター:田尻清太郎(鉄筋コンクリート構造)
本コラムが公開される頃にはすでにリアル会場での参加申し込みは締め切られているが、オン
ライン(Zoomウェビナー+YouTube Live)での参加は申し込み不要で当日参加が可能である。
ぜひ多くの方に、シンポジウムでの熱い議論を聞いていただきたい。