建築BIMの時代19 FMのDXはBIMが起点
2022.10.20
ArchiFuture's Eye 大成建設 猪里孝司
7月末に、JFMA(日本ファシリティマネジメント協会)から「ファシリティマネジメントの
ためのBIM活用事例集」が発行された。筆者が部会長を務めるBIM・FM研究部会が中心となっ
てまとめたものである。FMでBIMを活用している10事例が掲載されている。個々の事例の概
要とともに、取組みフローやBIMモデルフローなど手法に関する内容が示されている。また
「満足度」「期待する効果」「課題・問題・苦労」「今後の期待」などのBIM活用に対する評
価が記載されている。FM業務でBIMがどのように活用できるか、FM業務にBIMが貢献できる
のかという問いに対する回答となっている。是非、手に取っていただきたい。
この事例集は、現状のFM業務でBIMが活用されている事例を集めたものである。従って、BIM
活用の効果として効率化やコスト削減を挙げているものが多い。BIMがFMに貢献できているこ
との証であるので、それはそれで有難いことであるが、少し物足りなさを感じている。昨今話
題のDXへの期待は、破壊的イノベーションによる経済成長だと認識している。DXで経済成長
しよう、DXしないと相対的に貧しくなってしまいますということだ。その文脈から考えると、
FMでのBIM活用の現状は改善の域をでず、DXには程遠い。これはFMの課題であり、BIMの課
題でもある。早くFMのDXの解を見つけて、FMを羽ばたかせたいと思っている。
最近読んだ本*1に、面白い事例が出ていた。その本の著者が学生の頃、エジプトの事務所で働
いていた。著者が草案を書いた手紙の写しが必要になったので、単にコピーすればいいものを、
上司が秘書に3部タイプするよう命じていたそうだ。コピー機を動かす料金よりも秘書の人件
費の方が安かったというのがその理由とのことだ。「一見非合理的な決断は労働力が安い国や、
生産性の低い仕事から労働者が抜け出せずにいる国」で実際に起きていることとして、生産性
向上の必要性を示すために挙げられていた訳だが、デジタル技術の活用にも当てはまる。現在
のBIMとFMの状況を、デジタル技術の活用が進んだ未来から見ると「一見非合理的な決断」を
続けているように見えるはずである。
と、評論するのは簡単だが、デジタル技術の活用が進んだ未来を描くことは簡単ではない。FM
には施設のデジタル情報が不可欠である。BIMは施設のデジタル情報のかたまりといえるので、
FMとBIMとは相性がいいはずである。しかしBIMがFMに変革を起こすほどのインパクトを与
えていない。原因のひとつは、BIMが施設をつくる人たちが、施設をつくるために考え出した
ものであることに起因する。個々の情報の内容や構成が、施設をつくることを目的として考え
られているので、施設を利用し、維持していくためには不十分であったり、過剰であったり、
加工が必要であったりする。もう一つの原因は、FMで施設の情報をどのように活用するかが手
探り状態であるからといえる。現状のFM業務でのデジタル情報の活用は進んでいるが、それか
ら飛躍したデジタル情報の活用には至っていない。SDGsやカーボンニュートラル、ダイバーシ
ティやLGBTQなどの社会課題と施設との関係が、飛躍したデジタル情報の活用を考えるヒント
になるかもしれない。
*1: 21世紀の社会契約 ミノーシュ・シャフィク著、森内薫訳、東洋経済新報社、2022年