未来の実験都市
2022.11.01
パラメトリック・ボイス
アンズスタジオ / アットロボティクス 竹中司/岡部文岡部 トヨタ自動車が発表した実験都市「ウーブン・シティ」(Woven City)に注目が集
まっている。なぜ自動車会社が都市を?その答えは「自動運転技術を開発する中で
培ってきたセンシングやコンピューティング、アクチュエーションといった技術が、
未来の都市の開発に役立つだろう」という視点からだ。
竹中 自動車メーカーの枠を超え、モビリティ・カンパニーへの変革を見出した、大きな期
待が集まっている挑戦だね。都市設計を担当するのは、デンマーク出身の建築家
ビャルケ・インゲルス。デジタルテクノロジーと物質世界とのつながりをいかにして
創生するか、リアルな住空間の中で実験都市を開発するプロジェクトだ。一部のエリ
アは、早くも2025年頃には開所する予定だという。いくつかの計画案も公開されて
いるね。
岡部 ウーブン・シティは、建築、情報、移動などが「編まれた街」として描かれた提案だ。
はじめは関係者ら約2000名から始め、段階的に居住者を増してゆく計画である。未来
の暮らしの「成長」をどのように描いてゆくのか。新しい都市のあり方を模索するユ
ニークな見せ方に期待したい。
竹中 未来都市像は昔から多くの建築家たちが描いてきた。例えば1964年、アーキグラ
ムのメンバー、ピーター・クックによって提案された「プラグ・イン・シティ」があ
る。組み替え可能なユニットで構成された建築が日々成長してゆくアイディアだ。
ロン・ヘロンが描いた「ウォーキング・シティ」もしかり、都市自体が歩くという自
由な移動空間世界が描かれていた。これまでの常識や規範にとらわれない、制約から
の脱却が建築の姿を開放したように思う。
岡部 一方、近年の未来都市像は、ある意味、現実的とも言えるかもしれない。グーグル傘
下のSidewalk Labs「トロントのウォーターフロントエリアの再開発計画」も興味深
い。コロナ禍の影響を大きく受け、またプライバシー保護を訴える住民たちとの衝突
もあり、残念ながら実現することはなかったけれど、SDGsを目指した高層木造ビル
による低価格都市システムも記憶に新しい。
竹中 さらに、アリババのスマートシティ戦略「城市大脳」(シティブレイン)などもある
ね。Alibaba Cloud(アリババクラウド)を使った都市の情報化が、公共リソースを
都市全体で最適化しているという。
岡部 今後要となるのは、情報世界と生活空間をどのように「楽しく」対話させるかにある。
積極的な対話を促す仕組みに、都市空間が呼応する。俯瞰した都市の完成形をゴール
とするのではなく、変化を許容するアプローチこそが実験都市を成功させる重要な手
がかりになると考えている。
竹中 そうだね、象徴としての形に答えを求めるのではなく、成長するカタチに着目する。
我々が「形を決めないカタチの設計図」と称したデジタル技術なくしては導くことが
できない建築論だ。空間や時間の概念を超越し、モノとサービスが情報で繋がること
で、街で生活する人々がエントロピーを増大させる。最大限に引き出された街のポテ
ンシャルが都市を変容させてゆく、そんな未来の楽しい都市像を抱かずにはいられな
い。