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コラム

建築”デジタル“実務のプロに向けた本

2022.11.15

パラメトリック・ボイス       SUDARE TECHNOLOGIES 丹野貴一郎
 
10月28日に3年ぶりとなるリアル開催のArchi Futureが開催されました。
オンラインにはない場の空気を感じたり、久しぶりの方と雑談できたりと、やはりリアル開催
は良いなと思いつつ、オンラインよりも聞くことができる講演が減ってしまったり、参加でき
ない方も増えてしまったとも思っています。
このようなイベントに限らず、日々の業務やコミュニケーションについてもリアルとオンライ
ンが併用されていると思いますが、時間とともに課題も多く出てきており、まだしばらくは臨
機応変な対応が必要になりそうです。
 
ところで、Archi Futureと同日に「建築実務のプロが作ったRhinoとGrasshopperの本」とい
う書籍を出版しました。
アプリクラフトの中島淳雄さん、竹中工務店の林瑞樹さんと共著で書かせていただいたのです
が、特に建築実務にフォーカスしてRhinocerosやGrasshopperの使いかたを紹介した書籍に
なります。
多くの書籍を出されている中島さんはともかく、林さんと私という建築業界でもニッチな立場
にいる二人が書いている、ある意味では貴重な本です(初期の打合せで誰が読むんだろうと二
人で悩みました)。
 
Rhino・Grasshopperに限らずデジタルツールはツール側からの視点と実務に関わる人からの
視点が異なる部分があります。
これは書籍を執筆する中で改めて気づいたことでもあるのですが、例えばツール側の視点から
見るとできるだけ少ない工程できれいな結果に到達することが良かったりするのですが、実務
側の視点から見ると、途中過程ごとの結果も必要な情報になったり、それにより結果の良し悪
しが変わったりもします。
 
本来はしっかりと要件が定義されて、それに沿って正しい結果を出せることができれば良いの
ですが、建築実務では多くの場合定義のできない要件が多かったり、そもそも結果の正しさが
見る人によって異なったりします。
このこと自体を変えていかなければいけないという話はさておき、現実の実務ではこのような
不安定な中で作業を進めることになります。
私自身はソフトウェアのエンジニアとしてプロフェッショナルではなく、建築実務のなかでど
のように使っていくかを考える立場なので、できる限り普段の業務に沿って手順を考えて紹介
しました(自分一人で考えている執筆の過程でさえ実際に建てるならどうしようとなると、何
度もモデリングやGrasshopperの組み直しをしているのです)。
 
ソフトウェアの使いかたは入門書やウェブの情報である程度理解できるなかで、デザイン検討
以外の使いかたが普及していないのは、他の実務で使っている中身や知識にふれる機会が少な
いことも原因の一つではないかと思い、ソフトウェアそのものの使いかたは極力省き「意外と
知らない3Dモデリングの深い基礎知識」「実務で使うときの手順の例」「さらに使いこなす
ためのヒントになりそうなサンプル」の3つの軸で構成しました。
読む方によっては非常に読みにくい本になっていますが、今回書かれた内容くらいは当たり前
に考えられ、さらに次のステップに進めていける 建築”デジタル“実務のプロが増えるきっか
けになれば幸いです。
 
最後に…私の入稿が遅くあまりチェックがされていません(アプリクラフト熊野さん、
金野さんご迷惑をおかけしました)ので、おかしなところや、もっとこんなやり方があるよと
言うときは教えてもらえると助かります。

丹野 貴一郎 氏

SUDARE TECHNOLOGIES    代表取締役社長