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コラム

ざっくりとした構造の四阿をパラメトリックで解く

2022.12.06

パラメトリック・ボイス         隈研吾建築都市設計事務所 名城俊樹

10月下旬に明治記念大磯邸園内に四阿がオープンした。
かつては大隈重信、陸奥宗光の別邸があり、そこを購入した古河家の別邸、古河電工の迎賓施
設となったこの邸園は、現在、国の公園としして整備が進めれられている。
邸園内で複数の建物の整備・復原工事が行われている中で、この四阿は海を眺めるための休憩
所として計画された。
海水浴発祥の地として有名な大磯の歴史と海に面した立地から、浜辺で使うパラソルのような
軽やかな屋根をかけることを考えた。

一方、松林の中に立つ四阿であること、陸奥宗光と山県有朋がこゆるぎの浜でくつろいでいる
有名な写真のように邸園の中でゆっくりと休める場所になるようにということを考え、主構造
として木の丸太上の部材を採用し、かつそれらをざっくりと組み立てたような構造とすること
で海の家のような仮設性、イベント性を表現したいと考えた。
この「ざっくりと組み立てた」という表現がデザイン上なかなか難しく検討は困難を極めた。
模型等を使いながらイメージを固めていったが、最終的にはRhinocerosのGrasshopperを活
用して各部材の交点に条件付けを行い、部材の組み立て方を最適化していった。小さな四阿で
あることから、全体をパラメトリックデザインで解くことが可能であった。
丸太を組み合わせるということで、それぞれの部材は点で接合されることになるが、この施工
にはCOEDA HOUSE(2017)でも使用した拡張樹脂アンカー工法を採用することで、意匠性と
構造強度の担保を同時に実現している。

現場での施工に際しては、小さな部材の集合体であったので、重機をほぼ使わず、手作業での
部材の組立が可能であったので、邸園の開園時間等にもほとんど影響を与えずに工事を行うこ
とができた。このように全体的にコンパクトで効率的な計画ができた一方、円形断面の部材を
点で組み合わせることにはかなりの困難さも伴い、現場では付きっきりで大工が微調整を行い
ながら部材を組み立てていった。
完成した四阿では、主要部材の接合部が点で見え、「ざっくりとした」という部材の組み合わ
せのイメージがうまく表現できたのではないかと考えている。
現在、邸園内では旧大隈別邸、旧陸奥別邸ともに復原工事のために揚屋作業が行われている。
年内はこの様子が仮囲い越しに視察できるようになっており、四阿の見学も含めてぜひ皆様に
は足をお運び頂ければと思う。


名城 俊樹 氏

隈研吾建築都市設計事務所 設計室長