建築BIMの時代20 Society 5.0を目指して
2022.12.15
ArchiFuture's Eye 大成建設 猪里孝司
先日のArchiFuture Webのヘッドラインでも報じられていたように、国土交通省が国費80億円
で「建築BIM加速化事業」を創設した。建築の新築プロジェクトで、複数の事業者が連携して
建築BIMデータの作成などを行う場合に、BIMソフトウェアや講習などに要する費用に対して、
国が補助を行うものである。国土交通省は、建築BIM推進会議や補助事業、連携事業等で建築
BIMの推進に力を入れてきたが、一段ギアを上げたと感じている。ArchiFuture Webをご覧に
なっている読者なら、建築BIMには数多くの課題があることは理解されているだろう。BIM活
用が遅々として進んでいないと感じている人もいるかもしれない。しかし、日本のBIM元年と
いわれる2009年から見るとBIMを取り巻く状況は大きく変わっている。それもいい方向に変化
していると思っている。あくまで個人的な考えだが、BIMに限らず全ての事柄において、わが
国は一朝一夕にものごとが変化すること、急進的な変化は殆どないのではないだろうか。漸進
的な変化の積み重ねの後、気が付けば大きく変わっているということが多いと思う。
二十数年前、UC バークレーと建築設計でのコンピュータ利用について共同研究したことがあ
るその時のメンバー間の会話で、私が「アメリカは決断が速いが、日本は決断が遅く先に進ま
ない」といったのに対し、バークレーのメンバーが「アメリカは、決断は速いが実行は遅い。
日本はなかなか決断を表明せず、検討や準備を重ね、決断を表明した時には完成している」と
いうようなことをいっていた。BIMの現状も検討や準備の最中だと思っている。私たちが
Society 5.0の中で暮らしていると実感した時には、BIMは当たり前のものになっているはずで
ある。
10月28日に開催された「Archi Future 2022」のパネルディスカッション「BIMデータ連携の
広がりと総合建設業の経営戦略」の中で、あるパネリストが“日本の発注者は竣工した時に、
最新の建築を要求する”というような主旨の発言をされていた。“最新の建築”には、その時の最
新の技術を反映したもの、社会や経済状況に合致したものという含意があったと思う。設計期
間や施工期間を経たあとに”最新の建築”を実現することは不可能である。BIMを取り巻く状況
が進歩すれば、”最新の建築”に近づくことができるのではないかと思っている。
以前、マイクロソフトのTV CMで、自動車販売店にいるカップルが新車の色について相談する
のに呼応して、工場で塗装ロボットが塗料につながったノズルを持ち替えているというものが
あった。デジタル化を進めることで、顧客のニーズに即応するものづくりが可能だということ
を表現したかったのだと思う。リードタイムが短い方が、発注者の満足は高まるはずである。
そのために、設計者や施工者が大変な苦労をしているのである。今のところBIMがその苦労を
増しこそすれ、減じていることはない。しかし、デジタル情報の効果の一つである情報共有の
効率化は、リードタイムの短縮に貢献してくれると信じている。BIMの普及が私たちを
Society 5.0に近づけてくれる。