輝くロールモデルは必要ですか?
2022.12.27
パラメトリック・ボイス GEL 石津優子
業界のロールモデル、女性のロールモデル、様々なロールモデルという言葉で溢れています。
特にマイノリティに関して、ロールモデルが不在だから次世代が挑戦をしたがらないなんて
言葉も聞きますが、本当にそうでしょうか。
むしろ、逆な気がしています。私に相談に来る人は、悩みを聞いた後、「石津さんみたいには
なれないから」と言われることがあります。過去の自分を思い出します。学生時代、まだ今よ
りも経験も実装力も全てがなかったときに既に活躍している方々と比べられて、「あなたには
○○が若いときより才能がない」と知見のある人に言われたり、20代後半のインターン時代に
結婚報告をしたら、出産を経験している女性の人事の方から「就職を希望しているのに結婚で
すか、出産を視野入れているなら能力向上を図るのは難しく、現状維持で精一杯だから難しい
のではないか」等と告げられたりすることもありました。これらはおそらくこれらの助言を下
さる方のイメージするロールモデルや実体験からくるもので、それと比べての感想やアドバイ
スだったのだと思います。残念だとは思いつつ、社会に対して怒りを覚えることはなく、現状
欲しいものは特定の席ではなく、結婚や家族をつくることだから、それは仕方ないかなという
気持ちでした(実際は産後の方が実装力は劇的に伸びたので、能力が伸びる時期は人それぞれ
です)。
そんな無理、無理と言われ続けてそれにある種の納得していた私が、ロールモデルになってく
れと誰かから言われるようになるとは誰が想像したでしょう。結婚したら終わる、出産したら
終わると言われながら、そういうものかもしれないなと思い、終わりがくるなら最後に複数リ
スクを背負って挑戦してみようと思って開催した国際ワークショップが今でも代名詞になって
いたり、その当時の挑戦を評価してくださった方々に仕事を頂いていたりしています。産後は
きっと時間がないし、家族の病気も見つかり環境も変わるから、この一年でやりたいことはや
りきって、一旦終えると終止符を打とうとしていました。しかし、それらの取り組みを発表し
たArchi Futureの講演を拝聴してくださった方から、産後でもいいから就職してほしいと企業
側から声をかけていただいたことで、終わりではなく、新たなキャリアが始まりました(焦り
すぎて産後2か月で復帰を希望し、あまりに体調が悪く、無謀すぎた挑戦に後悔することはま
た別の話ですが、、、)。
もし、これをロールモデルにしようとしたら妊娠中にチェーンソーを持って丸太を担いで産業
用ロボットを動かす、産後は2か月で新天地で仕事復帰という女性が素晴らしいと賞賛するこ
とになり、自分が学生だったとしてもそれは嫌だなと嫌厭しますし、キャリアが続くだろうと
思っていたらとっていなかった行動だとも思います。時期をずらしたり、調整したり、色々で
きることはあると思います。何よりもすごく大変なのでおススメしないです。
私が言いたいことは、あなたのロールモデルは「あなた自身が想像する未来のあなた」という
ことです。輝いていなくていいのです。全く環境も才能も違う人をロールモデルにしなくてい
いです。5年後、10年後、どんな自分になりたいか、ちょっと想像してみるだけで十分だと思
います。結婚、妊娠、出産、文字にすれば同じ漢字が並びますが、それによってどういうふう
に自分の生活が変わるかは、自身の体質、体調、家族の健康、環境、実家サポートなど、様々
な要因があり、誰一人として同じ人はいません。前提条件が違う人を他人が比べて褒めても全
く意味がないですし、単に同じ属性、例えば女性だったとして、「○○さんは女性だけどこん
な仕事も子育てしながらこなしているよ」という発言こそが一番の圧力で、それは応援ではな
く、個々の否定です。属性ではなく、個別の個人として声を聞いてあげてほしいのです。それ
は男性であっても子育てをすることもあり、男性も参加すべきという二項対立の話ではなく、
望んだ時に、その属性が例え前例やロールモデルがいなかったとしても、その人が望んでいる
ことを聞き応援してあげることなのではないでしょうか。前例をつくるのでなく、前例なんて
ものがなくても、個別の事情で論理的に判断し、多様性の意味で社会貢献であるので個別ケー
スであってもできるだけ受け入れるという考えが一番理想だと思います。重要なのは多数決で
何かを判断しないということです。人口減少の社会では、マジョリティの存在よりも拡散して
いるマイノリティの存在をいかに活かすかだと思います。
ロールモデルというものは切り取られた存在なので、断片的な属性情報しかなく、それが自分
と同じだからといって必ず違うところがあるので、参考になりません。特に、プライベートに
関わるところはパートナーが個別に違う点で全く参考になりません。他人を羨んでも全くポジ
ティブな変化が生まれません。
ロールモデルをつくろうとするのは、もう時代に合わないのかもしれません。なぜなら、それ
は前例があると世の中が動きやすいというマジョリティ前提の前世代的な考えが前提にあるか
らです。ロールモデルが不在でも、個々の主張や対話で可能性が開かれていくような社会で
あって欲しいと思います。前例がなかった私を様々な企業が受け入れてくれたように、前例が
ない人を受け入れる体制や姿勢をつくるために、また前例があったとしてもそのケースとはま
た別のケースとして、ジャッジなしに個別に判断をする姿勢や動きが今こそ必要なのではない
でしょうか。
マイノリティにはロールモデルは必要ない、けどこんな人もいるよと知ることは、当たり前を
広げ認知の幅を広げることになるので、こんな人もいてもいいのだな、だから自分もいてもい
いのだなと自尊心を上げる方向で、私のケースも扱って頂けると、こうして人前に出て意見を
言うということをしていることに価値を感じることができます。他者否定、自己否定に繋がる
前例主義のロールモデルではなく、ダイバーシティを尊重する個人主義の考えとしてそれぞれ
の人が、自尊心を上げるための材料と扱って頂き、次の人たちへも繋げてもらえれば、とても
うれしいです。ロールモデルがいる人を否定するものでもなく、ロールモデルがいないと感じ
る人は無理に作る必要なく、Better version of yourselfが一番です。
誰とも比較せず自分の興味の対象を見つけ、それが偉大な他者と例え同じでも、気にせずに対
象へ真摯に向き合うことを目標に、これからも仕事に打ち込んでいければ良いなと感じており
ます。ロールモデルを持っていない人、私も含めてそういう何かを目指して猛烈に生きていな
い人というのは、もともと自尊心が低いことや現状で困難に直面しているということが要因も
あるかもしれないです。他者と比較して落ち込むなら、比較しない、少しだけ何か改善できる
ように取り組む、精神の安定を第一に進んでいけるように努力したいです。
Don't look for your own role model, but be a better you. You are already better than
you think you are.