LEED試験のおトクな突破法
2023.01.06
パラメトリック・ボイス 竹中工務店 / 東京大学 石澤 宰
博士課程を3月末で卒業した際、長かった研究活動に区切りがついてホッとすると同時に頭を
よぎったのは「あー、次はLEED AP取らなきゃ」でした。これは自発的なものというより、私
の身近な人に「LEED APくらい持っとらんでどうする」と何度も言われるうちに段々と「そう
なのかもしれない」と思い始め、ついに「だいぶ後回しにしちゃったけどそろそろやらなけれ
ば」と思うくらいになっていた、という性質のものです。私が個人的に大事にしている言葉に
「10回言えば現実になる」というのがありますが、確かに10回言われると信じ込むものだと身
を以て感じた次第です。
LEEDそのものの詳しい解説は他所に譲りますが、世界で最も広く使われているグリーンビル
ディングの認証制度です。日本国内での認証件数も着実に増えていますが、国際プロジェクト
で要求されるケースのほうをよく見ます。LEEDプロジェクトの提出は基本的に誰でもできま
すが、有資格者がプロジェクトに参画することで整理がつき、評価上も加点要素になります。
LEED資格にはGreen Associate(初級)、AP(中級)、Fellow(上級)とあり、試験で獲得
できるのは最初の2つです。2014年と古い記事ですが、ArchDailyの”Want to Land a Job
at One of the Top 50 Architecture Firms? Here Are the Skills You Need to Have…”では、
アメリカのトップ50の設計事務所で最も求められるソフトウエアスキルはRevit、最も求めら
れる資格は(アーキテクトとしての資格よりも)LEED APとあり、強い需要が伺えます。
というわけでいつのまにか「やるべきこと」になっていたLEED試験、色々つまずきながらも
5月にLEED Green Associate、8月にLEED APに合格することができました。やってみた率直
な感想として、「LEEDプロジェクトなんて身の回りにないしなあ」という方にもGreen
Associateはおすすめできそうです。国際的に通用しますし、環境設計の基礎的な手法を程よ
く総ざらいできる機会として良いと感じます。
LEEDの環境に対する守備範囲は日本で言われるよりも幅広く、その枠組は参考になりますし、
環境設計の大目標と取りうる手法をセットで覚えられるので設計に活かせる内容が多くありま
す。LEEDの試験は英語が第一言語ですが、Green Associateなら日本語併記でも受けられま
す。さらに学生なら割引も受けられるので(AP試験は学割なし)、諸々取り組みやすい試験
です。
試験会場または自宅で受験できます。試験終了の瞬間に合否が出るのも特徴的で、合格してい
ればその瞬間から資格を名乗ることができます。ただし2年ごとに一定のプログラムをこなさ
ないと更新できないので、資格を持ち続けるには継続的に知識をアップデートする必要はあり
ます。
さて、前置きが長くなりましたが本題はここからです。この試験をクリアする低コスト戦略を
見出したのでそれをどこかで披露したいと思い、今回のコラムは「LEED試験のおトクな突破
法」の話です。なんだか最近YouTubeに投稿した動画が「10分ちょいでまあまあわかる
フリーで構築する設計スタディ環境(大学スタジオ課題向け)」(クリックするとYouTubeへ
リンクします)であったり、どうも私の周りは低予算ネタが多い気がします。趣味ということ
でお許しください。
LEEDの試験対策には多くのところが発行する教科書を購入して読み込む方法が一般的で、私
もそのようにしました。こちらが65ドル。正直ちょっと書籍としては躊躇する額でした。結果
として良い投資でしたが、今振り返ってみると「これでもいける気がする」という代替案があ
ります。それがGBESその他の公式フリー素材を活用することです。
こちらのサイトで配布している教材のうち、特にLEED Green Associate Glossary of LEED
V4 Termsは必携です。試験範囲に含まれる重要キーワードの解説で、嬉しいことに日本語版
もついており、LEEDに関わらずこれだけでも持っておきたい資料です。とくにLEEDでは用語
の定義が厳密で、たとえばデマンドレスポンスとは何か?などがLEED流に説明できないと躓
いてしまいます。GBESのStudy Guideにも「まず用語から(Learn your terms and
definitions first)」と(287ページある本の中で唯一)赤字で書かれている程なので、ここか
らスタートする方法で間違いはなさそうです。
次に、LEEDそのものの仕組みや用語が相当量出題されます。このあたりは教科書によくまと
まっているのですが、フリーで行くにはどうするか。実はAP向けにもフリーの教材があるの
ですが、その中の「LEED AP BD+C Credits Table(クリックするとjpgのデータ(表)をダウ
ンロードします)」が有用です。この表をA3で印刷して何度も見るとだいぶ見通しが良くな
ります。
さらに加えてGreen Building Japan (GBJ)ではAP試験用の教材の日本語訳を配布していた
り、GBJのYouTubeチャンネル(クリックするとYouTubeへリンクします)では試験の合格体
験談も掲載されており、こちらも参考になります。
そして仕上げに、これだけは買う必要があるのですが、問題集アプリです。私はLEED GA
Flashcardsというアプリを購入しました。こちらには日本語版はなく、また所々誤植があった
りしますが、この問題集のやり込みで私はきちんと得点できるようになりました。
以上で受験料の100ドルと教材1,200円。おそらくこれがミニマムではないかと思います。あ
とは勉強時間。スキマ時間に問題集を攻略していって、最後はまとまった時間をとる形で私は
進めていきました。
環境設計はコンピュテーショナルデザインでは決め手のひとつになりうる要素で、施策の大方
針やおおまかな評価手法の理解は必須といえます。専門家と協業するのが確実ではありますが、
方針立てや結果の吟味のために環境設計について学ぶことは大いにプラスです。資格取得を
ゴールとして勉強するのは良い戦略に思われますので、興味のある方はぜひトライしてみてく
ださい。
なお石澤は、合格した旨を冒頭の人に報告したところ「おめでとう。じゃあ次はCASBEE評価
員だ」と言われました。なんだかわかりませんが受験しなければいけない気になっており、知
らぬ間にすっかり教育されている自分に気づき不思議な気持ちになっています。このさいG検
定も近いうち受けてみるつもりなので、こちらももし低コスト攻略法が編み出せたらご報告し
ようと思います。