「Kaizen」と100年企業
2023.02.07
ArchiFuture's Eye ARX建築研究所 松家 克
迎春!!今年もよろしくお願いします。
新年早々、小生が担当した建築が「***賞」を受賞したとの連絡を受けた。今年は、嬉し
いスタートとなった。
母校のムサビは、間もなく100周年を迎える。片や後4年で会社の創業から90周年を迎える
日本生まれの世界企業、トヨタがある。最近、豊田章夫氏から佐藤恒治氏への社長引継ぎ
の発表があった。この企業は未だに改善を続けている。創業1926年、豊田自動織機の
トラック部門が独立し、1936年AA型乗用車販売。原型のG1型トラックの不具合が
続出したことによって、改善を重ねた結果、トヨタの基礎技術力が向上したという。
長年継続されている原動力は、創業当時から持ち続けている「カイゼン」の姿勢が重要と推
察する。このテーゼ=命題は、会社経営方針の大本。このトヨタがグローバル企業になり、
海外でも「Kaizen」が浸透し、昨年の販売台数は、半導体不足やEV化などのアゲインスト
の風の中、フォルクスワーゲンを大きく引き離し世界一だ。製造の現場ではもちろんのこと、
経営の観点でもカイゼン意識が根付いているという。大企業でありがちな「保守的な経営」
に過去になりかけた時にも社長を交代した攻めの姿勢はカイゼンの真骨頂でもある。
一方、ウィキペディアなどによれば、ARXが本社の設計をした“カルビー”の前身は、
1905年広島市宇品で創業の柿羊羹製造の“松尾巡角堂”だという。創業から優に100年
を超している。創業者の松尾孝氏が幼少の頃は、米ぬかを中心とした穀粉製造販売を行って
いたという。子供時代に近所の太田川で捕まえた小海老で母親が作るかき揚げが大好物だっ
たという。これが後の“かっぱえびせん”に繋がっている。高校時代に漫画家の清水崑氏のお
宅で菓子袋に描かれた河童を見たのが“かっぱえびせん”との初めての出会いだった。因みに、
カルビーの社名は、小海老のカルシュウムのカルとビタミンB1のビーとの組み合わせから
導き出されたという。焼肉のカルビとは無縁。
食品業界も時代に合わせた新製品の開発が必然とも言える。代表的な菓子を調べて見ると、
きな粉棒、きびだんご、コンペイトウ、カルメ焼き、ボンタンアメ、トンガリ、甘いか太郎、
都こんぶ、うまい棒、ベビースターラーメン、ラーメン屋さん太郎、前田のクラッカー、チー
ズあられ、ポテトフライ、ビスコラムネ、錠菓ココアシガレット、森永ラムネ、マルカワフ-
センガム、べっこう飴、パインアメ、わたあめ、むぎチョコ、粉末ジュース、お子様ビールな
ど、時代に併せて多種多様に販売され、常なる前進が、必然と言える。
Calbeeで、代表的なものと言えば、かっぱえびせん、ポテトチップス、シリアル、じゃ
がりこなどが挙げられるが、味や新製品の改善や開発には余念がなく、企業の存続を掛けてい
るともいえる。
片や車メーカーのHONDAは、創業から75年。今年で本社の竣工から半ばを過ぎるところで
あるが、トヨタと同様に国際競争の最先端にいる。収益も大きい。この環境下での技術革
新:カイゼンは常に進められている。このことからも息の長い会社となると考えられるが、
只、構造変化がEV化で進みつつあり、油断をすると国際競争から振り落とされる危機感もあ
るだろう。これは、技術者にとって、大きなプレッシャーでもあり、技術の進歩の追い風とも
いえる。Honda Jetの開発は本田宗一郎氏とHONDAの夢でもあり、継続性の次への布
石の一つと言えるのではないだろうか。
ところで、昨年の11月21日から開催された「FIFAワールドカップ カタール 2022」
で、日本代表がドイツ代表に勝利し日本中が沸いた。119年前の1904年に創設され
119年の歴史を持つFIFAがW杯を主催し、第1回は、1930年にウルグワイ大会だと
いう。その後、トロフィーや選定方法、賞金、ルール改定などが改善、改新されている。
今回のカタール大会では、AIとコネクテッド技術が試合のジャッジに活用されているのも注
目ポイントだった。
以前、ゴルフを楽しんでいた頃にゴルフボールにセンサーが付いていて、カップに向かって自
動的にカップイン出来るボールが密かに欲しいと夢で見た記憶がある。少し異なるが、サッ
カーボールで実現したという。
“アクロディア”が、センサー内蔵サッカーボールを開発している。3次元モーションセンサー
を搭載したサッカーボール型LoTデバイスだという。スマートフォンとペアリングを行い、
センサーから送られてくるデータを基に「球速」「回転数」「回転軸の角度」などを解析する
という。
FIFAが今大会で導入している「半自動オフサイド判定技術」は、カメラとセンサーを使っ
て選手やボールの位置関係やシュートした時間などのデータを基に、半自動的にオフサイドを
見分けるという。
スタジアムには、選手の手足やボールの位置を認識するトラッキングカメラを12台設置。
ボールにも「慣性計測センサー」という“仕掛け”がある。このセンサーでボールの状態を検知
し、データをビデオ判定のオペレーションルームに送信している。トラッキングカメラで選手
の動きを取得。この組合せて、データをAIに分析させ、オフサイドを判定。オペレーターと
主審、副審が検証するシステムが半自動オフサイド判定技術だという。検証にかかる時間は数
秒程度。この判定による三笘選手の1mmセーフの記憶は新しい。
残念ながら激闘虚しく、期待に反して初の8強には進めなかったが、身体が熱くなるくらい燃
え、原稿の手も止まった。瞬間視聴率も58%だったとか。
ここで、変化の象徴ともいえる携帯・スマホを題材として書かれたジャーナリストの野村進氏
の著書『千年、働いてきました』からの引用で書き進める。
この本によると日本には、創業100年を超す企業や会社が「10万社」以上あるという。こ
のような国は、ヨーロッパにもアジアにもない。国の体制の変化や戦争などと、原因はさまざ
まだが、何故か100年を超す企業は日本に際立って集中しているという。千年を超える企業
も数多く存在し、西暦578年の飛鳥時代に創設され難波の四天王寺の建立が、仕事始めの
「金剛組」がある。この1400年の継続は、世界最長寿と見られているが、現在でも業態を
変え事業を展開している。
そして、携帯。以前にもコラムで触れたが、この携帯に、創業百年を超える「老舗企業」の技術
と知恵が、たくさん詰まっている。例えば、折り曲げの部分には、京都の300年を超える金
箔屋さんだった会社の技術が活かされ、電磁波を防ぐ銀の塗料、配線基板の小型などもこの会
社による。着信などを振動で知らせる機能は、日本橋で百数十年前開業の両替商からスタート
した技術。今では、金の売買で有名な会社。携帯の心臓部とも言える発信器は、神奈川の老舗
企業。この技術は、世界中の携帯の重要な地位を占めている。液晶画面関連は、明治時代にラ
ンプや鏡台を製造していた会社の技術。廃棄される携帯電話など約3.5トンから1キロの金
の延べ棒を生み出すのは、秋田県の山の中にある銅山を経営していた会社の技術の転用。因み
に東京オリンピックの金メダルに使用された。全ての企業が、当然、百年以上の老舗ばかり。
携帯に象徴できるデジタルとITの新ツールが、これらの老舗企業に支えられていると言って
も過言でない。
昨年、ソニーとHONDAは、モビリティ分野における戦略的な提携を発表した。
ソニー創業者の井深氏は、本田宗一郎氏から大きな影響を受けたという。この二つの日本を代
表する企業が手を結んだ新会社は、モビリティの進化をリードできるよう取り組むと発表した。
『モビリティ業界は大きな変革期を迎えており、新たなモビリティやサービスが誕生している。
その革新の担い手は、従来の自動車メーカーではなく、新たな業界からのプレーヤーや新興企
業のチャレンジになっている。その震源地は、デジタルによるモビリティの拡張にある。モビ
リティのデータがネットワークで統合される世界では、自動車やバイクは単なる移動手段や所
有にとどまらず、デジタルとリアルをつなぐ、また社会と個人をつなぐ機能を担うようになる。
つまり、これまでの概念自体が大きく変化していく。それが今のモビリティが直面している課
題だ。ホンダは変化を傍観するのではなく、自ら変革を起こし、新しい時代のモビリティの進
化をリードする存在でありたい。ソニーは、「モビリティの進化への貢献」をビジョンとして
いる。それを共有できたので、検討に至った。ソニーとホンダは創業から、人の喜び、独創性、
チャレンジの気風を持ち、歴史的・文化的に共通する部分が多い企業だ。社会に新しい価値を
提供する新しい可能性がある。世界のモビリティの革新と進化をリードしていく存在を目指す』
と両社長が共に抱負を述べられている。
最後に、中国はこのパンデミックと人口減などによって経済が減速しているという。アメリカ
は、1925年に株が急騰しバブルに突入した。その後の1929年9月4日の株値が大暴落し、
アメリカの大恐慌が始まった。日本、これに似たバブル崩壊が1991年3月から1993年
10月くらい迄続き、後の喪われた20年時代を経験している。
日本の経済界や建設界は、ゼネコンが宇宙や海上風力発電、ロボット化・AI化を見据え始め
たように自らの変革:“カイゼン”が必要であり、重要である。カイゼンを怠ると、以前に先進
国であったアルゼンチンが債権不履行を繰り返し、国が衰えていった歴史を持つ。日本も辿る可
能性があることを肝に銘じておきたい。