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コラム

BIMデータの分類体系の説明に挑む

2023.04.11

パラメトリック・ボイス               芝浦工業大学 志手一哉

昔から「わかりやすく説明しろ」とか「メリットがわからない」と言われるのが苦痛で仕方な
い。民間企業にいるときは、上層部や管理部門へのわかりやすい説明資料の作成という非生産
的な作業にかなりのエフォートを費やしていた気がしている。自ら理解の努力をしない方にど
れだけ頑張って説明しても豆腐に釘を打つようなものである(もちろん、学習したうえでここ
がわからないという質問には喜んで応える)。大学に職を移し自由に研究できる身になってか
らはそのようなことを要求されることもなく健やかな日々を過ごしている。それでも分類体系
に関してはわかりやすい説明を求められることがままある。確かに分類体系は必要だが、なぜ
その分類体系なのかとかそれをどう活かすのかを理解するのは難しい。筆者自身の理解を深め
ることもあるので、分類体系の説明に挑みたい。

「分類」とは、「事物をその種類・性質・系統などに従って分けること。同類のものをまとめ、
いくつかの集まりに区分すること(デジタル大辞泉)」である。つまり、全体を共通性に従っ
て何某かの概念で定義付けながら構造的に階層立て、その順序を記号法で表現することと言え
る。分類の英語表記である「クラシフィケーション」が使われている例としてよく知られてい
るのは競走馬のレーティングである。JRAによるクラシフィケーションの解説は「競走馬の
レーティングを年齢(2歳・3歳・4歳以上)や芝・ダートで区分し競走距離別に並べたもの。
世界の競馬主要国と同じ基準で作成されているため、世代間のレベルの比較など日本馬だけで
なく、その年の競馬主要国のダービー馬の比較のような国際間の比較が可能となっている」で
ある。ここで重要なことは、「国際間の比較が可能」ということだろう。

BIMデータに分類体系(Classification System)を適用するとは、BIMオブジェクトを何某か
の分類区分(ここではクラスと呼ぶことにする)に振り分けることである。例えば、板状の形
状をしたオブジェクトを、どのコマンドで作成しようと、なんという名称を付けようと、建物
要素として「陸屋根」のクラス、システムとして「断熱なしアスファルト防水システム」のク
ラスに入れることで、設計者はそのオブジェクトが「屋上のアスファルト防水」を意味してい
ると誰でもわかるようにできる。建物要素やシステムのクラスは世界共通で、そのクラスに入
れた防水システムの工事仕様は各国やプロジェクトごとに異なる。日本であれば、工事仕様
(防水層の種別及び工程 )は『公共建築工事標準仕様書』に整理されている。基本設計では
そのオブジェクトを「陸屋根」「アスファルト防水」のクラスに入れ、実施設計でそのオブ
ジェクトに「A-1(屋根保護防水密着工法の1)」という工事仕様の属性を付与すればよい。

クラスに入れることができるのは、BIMオブジェクトだけではない。建築工事標準仕様書、建
築工事標準詳細図、建築工事内訳書、建築工事積算基準、建設コスト情報、LCAデータ、建築
物のライフサイクルマネジメント用データ、建築保全業務共通仕様書、建材カタログ、各種業
界団体の仕様情報など、建築にかかわるあらゆる情報をクラスに入れることができる。例えば
「アスファルト防水」というクラスの中にそれらの情報があれば、情報を統合しなくても各情
報源を横断して同種のデータを再利用できるようになる。各情報源はそれごとに情報が分類さ
れている。例を挙げると、『公共建築工事標準仕様書(建築工事編)令和4年版』であれば
「9章 防水工事 > 2節 アスファルト防水」、『公共建築工事標準単価積算基準(令和5年改
定)』であれば「第9節 防水 > 表A-1-9-3」に各種防水が細目として記述、BELCA『建築物
のライフサイクルマネジメント用データ集』であれば「1 外部仕上 > 01 屋上床 > 01①~③
と02」がアスファルト防水の分類、日本建築学会LCA小委員会の『単位換算データベース
Ver.1.00』であれば「防水 > 外部仕上 > 屋上床」に各種防水が細目として記述、かたなびと
いう建材カタログ検索サイトであれば「建築用資材 > 防水材 > アスファルト防水・改質アス
ファルト防水」という具合である。それらが同じ意味や概念であることを定義しなければ、
データの再利用や相互運用をするアプリケーションの開発が難しい。しかし、各情報源の分類
名称を共通化することは現実的ではない。

一方で、構造化された分類を共通理解のクラスとし、それと各情報源の分類の関係を定義する
辞書を使うことで、情報源同士をネットワーク状に結びつけることの可能性が見えてくる。そ
のキーとなる分類体系に何を選択するかが問題だが、様々な情報をBIMオブジェクトに紐づけ
て利用することが建設DXの要点であるならば、建物の構成を物理的に展開するコンセプトで
構築されたものを適用するのが良い。
建設分類体系の国際規格であるISO12006-2が示す枠組みは、様々な概念で建設プロジェクト
を分類するファセット型を前提とし、各概念が情報オブジェクトクラス(テーブル)として纏
められている。各テーブルは、「分類(type of)」や「構成(part of)」の階層で整理され
ている。分類の階層は、テーブルの属性に基づいて上位クラスをサブクラスに分類することで
ある。構成の階層とは、サブクラスの集合が上位クラスを構造的に構成することである。
ISO12006-2では構成について、システムをサブシステムに細分化・構造化する考え方として
いる。また、システムの構成要素を入れ替えたり削除したりしても、システムを定義する概念
は変わらないと説明している。図はISO12006-2に掲載されている壁を例とした分類階層(横
方向)と構成階層(縦方向)の関係である。壁システムは壁構築システムと窓システムで構成
され、窓システムはガラスと窓枠で構成される。窓システムは木製、鋼製、プラスチック製に
分類でき、窓枠は木製、鋼製、プラスチック製に分類できる。窓枠のように構成における上位
システムの属性の選択にサブシステムの属性が影響を受ける(属性が承継される)こともある
し、ガラスのように影響を受けないこともある。


この「分類階層」と「構成階層」の関係は、BIMオブジェクトの構造と整合している。窓シス
テムというBIMオブジェクトは、窓枠やガラスというサブシステムを内蔵しており、サブシス
テムの属性は、窓枠のように上位システムの属性を承継する場合もあれば、ガラスのように別
の要件で決まることもある。なお、嵌め殺しか引き違いかなどという窓の形状の違いは、窓枠
の分類に対する属性である。「分類階層」と「構成階層」の関係を忠実に再現した分類体系と
して知られているのがUniclassである。そのポイントは「システム」という概念のテーブルを
創造したことにある。システムは建物の部分の構成を具体化するとともに、その構成要素の集
合群に対する上位クラスの役割がある。つまり、システムのテーブルでは、BIMオブジェクト
を単一のクラスに入れることができる。故にUniclassは、BIMオブジェクトをハブとした各種
情報源相互の連携を担う共通理解のキーとなる分類体系として適していると考える。BIMオブ
ジェクトをUniclassのクラスに入れるとは、部分(EF:Elements/ functions)やシステム
(Ss:Systems)の番号をBIMオブジェクトに属性として付与することである。

しかし、様々な業務を遂行するためには、システムの下位クラスである構成要素の情報が必要
となる。Uniclassでは、システムを構成する要素の分類としてプロダクトのテーブルが用意さ
れている。例えば「Ss_25_30_95_95  Window systems(窓システム)」を構成するPrの
集合「Ss_30_40_30_55  Mastic asphalt warm roof covering systems(アスファルト防
水外断熱システム)を構成する資機材のセットは下記の表のように表記できる。この集合に何
を含めるか/含めないかは、規格であると共に任意である。例えば、アスファルト防水外断熱
システムの規格は公共建築工事標準仕様書に提示されている。一方で、窓システムにカーテン
レールや遮光ブラインドを含むか否かは積算の観点や購買の観点で異なる。また、これらの
セットの各番号をBIMオブジェクトの内部に記述する必然性はない。BIMオブジェクトのイン
スタンスにリンクされていれば、当該オブジェクトを構成するプロダクトのセットをBIMソフ
トウエアの外で管理することもできる。各プロダクトに、サイズ、枚数、強度などの仕様を記
述することが実施設計の本質であるが、基本設計においてはそれらを仮定することでコスト、
LCC、LCAをシミュレーションできる。各プロダクトの仕様をコード化するか否かはどちらで
もよいし、建築基準法などの要件で決まる建物要素の要求性能から自動で想定してもよい。こ
うしたことを実現するためには、プロダクトの分類を共通理解のクラスとし、それと各情報源
の分類の関係を定義する辞書を使うことで、各情報源に離散化しているデータを再利用できる
仕組みの構想が必要である。



参考文献:ISO 12006-2:2015 “Building construction — Organization of information  
     about construction works — Part 2: Framework for classification”

志手 一哉 氏

芝浦工業大学 建築学部  建築学科 教授