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コラム

アナログな世界におけるデジタルの活用

2023.04.25

パラメトリック・ボイス         隈研吾建築都市設計事務所 名城俊樹

昨年12月、東京藝術大学上野キャンパスにデザインした国際交流棟が竣工した。
2019年に竣工したお茶の水女子大学 国際交流留学生プラザ及び2020年に竣工した東京工業大
学 Hisao & Hiroko Taki Plazaに続く、国立大学内に立つ国際交流を目的とした3棟目の建物で
ある。
東京工業大学の建物名にもなっているとおり、ぐるなび創業者の滝久雄氏の御夫妻が私財を寄
付されて我々が設計、デザインした一連の建物の中で最後の建物となっている。

お茶の水女子大学の施設の設計を開始してから東京藝術大学の施設が竣工するまでの間に7年
以上の時間を経ているが、この期間に施工者に対するBIMの浸透度が大きく変わった。
お茶の水女子大学の現場では設計図をベスに我々監理者が詳細な3Dモデルを作成して現場
調整を行っていたが、東京工業大学や東京藝術大学の現場では施工者が作成した3Dモデルを
ベースに調整を図ることができるようになった。デジタルデータベースでのやり取りが主とな
るデザインの世界から、実際に手を動かしてものを作っていくアナログな世界への浸透が進ん
だと言えるだろう。
この流れは設計者にとっては非常に大きなもので、施工者サイドの建設中の建物への理解度が
格段に上がったと感じている。特に施工上の問題把握や設備納まりの調整については非常に有
効であったと肌感で感じられるものであった。

また、東京藝術大学の施設は建物自体をアートの下地として考えるというコンセプトのもと、
キャンパスに面する側の立面にSTメッシュを設置し、オープンに向け7つのアートを設置した
これらのアートのうち4つはデジタル技術を積極的に活用したアートとなっている3Dプ
リントをはじめとする制作工程への導入やアートそのものをデジタル空間で表現する等、それ
ぞれの使い方としては様々なものであったが、やはりアート制作の世界でもデジタル技術の活
用は不可欠なものになっていることが分かる経験だった。

この東京藝術大学の施設と同時に南三陸311メモリアルについても監理を進めていたが、その
中に収蔵する故クリスチャン・ボルタンスキー氏のアートについても氏のアイディア及びス
ケッチを元に3Dモデルが制作され、氏の監修を受けてデザインが行われていた。
新型コロナウイルスの影響による渡航制限の影響で、パリ事務所のスタッフ以外は氏と直接の
やり取りをできずオンラインでの調整となったが3Dモデルが有ったおかげで円滑に協議が
できた。また残念ながら工事期間中にボルタンスキー氏は亡くなられたがこの3Dモデルが
あったおかげで氏の意図を反映したアートの制作が可能であった。
BIMの浸透と様々なアナログな制作現場でのデジタルの活用実態を強く感じられた事例であっ
た。


 

名城 俊樹 氏

隈研吾建築都市設計事務所 設計室長