建築学生の就活事情
2023.04.27
ArchiFuture's Eye 広島工業大学 杉田 宗
4月に入り研究室の学生からも「内定もらいましたー!」とメッセージが届く時期になりま
した。日本のような就職活動が無いアメリカで、建築学生をやった私としては、日本の大
学で教えはじめて一番驚いたのがこの「就活」でした。学生の就活における教員の役割に
ついては賛否両論あると思いますが、広島工業大学は就職率の高さを売りにしている手前、
教員にも高い就職率を維持するための学生サポートが求められます(教育や研究の中身で
学生が集まるような大学にしたい気持ちでいっぱいだが…)。
日本の就活経験の無い私にとって、最初は何をどうしてやれば良いのかわからない状態で
したが、杉田宗研究室の卒業生も7期目となり、いろいろな学生の様々な就活を通して全体
の様子が見えてきました。今まさに学部3年生や大学院1年生になったばかりの全国の建築
学生や、または採用業務に関わる企業の方々にとっての参考になるよう、建築学生の就活
事情についてまとめてみます。
早いに越したことはありませんが、就活に対しての意識を持ち始める(持たせる)のは学部
3年の前期です。学部1年や2年の頃に、説明会やインターンシップに参加する学生は、そ
れ自体が目立つので頭一つ出ます。こういう行動力のある学生は順当に決まっていくので
心配ありません。もしもあなたがまだ2年生以下だったら、積極的に今年から活動しましょ
う。学部3年の前期には、夏のインターンに向けての準備をします。しかしながら、この
時期にやりたい仕事や目指している企業が見つかっている学生はほとんどいません。みん
な「卒業までまだ2年もあんだから、そういう時期になったら本気で考えるっす」という顔
をしているので、私はまずはじめに、内定をもらう時期はここから1年以内で、そこまでの
スケジュールを説明し、本気で考えたことが結果につながる可能性が高いのは今だと伝え
ます。
3年の夏休み中にはできるだけ多くのインターンシップに行かせます。そして、やりたい
ことを見つけるのではなく、やりたくないことを見つけるように言います。どの企業も多
くの時間と費用をかけて説明会やインターンシップを準備しているので、学生たちが本当
にやりたくない仕事を見つけるのは難しいことです。結果的に、自分の興味のある分野に
広く浅く触れる機会になれば良いと考えています。広工大は3年生でも授業が多く、後期が
始まってしまうとインターンシップに行くことが難しくなります。夏休みのこのタイミン
グを逃すと、就活の視野を広げる機会を失います。
大手企業を目指す場合には、3年後期がカギです。設計職などは、年末年始に募集の締め
切りを設定している企業が多く、その時には自分のポートフォリオが仕上がっていないと
いけません。初めて作ってそれなりのものができるとはいかないので、何度か作り直しな
がらクオリティーを上げていきます。もしも目指す企業に研究室のOBOGが居るのなら積
極的に助けてもらいます。ポートフォリオの見せ所や、自己PRの内容など、すでに合格し
た人の意見を信じて準備を進めます。OBOGがいなかったとしても、企業のリクルーター
の人との繋がりがあれば迷うことなく助けてもらいましょう。もしもあなたが一緒に働き
たい人物だと思われたら、自分の時間を削ってでも助けてくれる人が結構沢山います。就
活を助けてくれる人を多く持つことが、就活の重要なポイントであり、入社してからの人
間関係の土台になります。
前述の通り、設計職の採用時期が早いことには気を付けましょう。また、特に大手になる
と大学院生が採用される可能性が高いのも現実です。これは、卒業設計や卒業研究を通し
て得た知識やスキルを土台に、更なる設計や研究に取り組んでいる実績によるもので、
ポートフォリオのクオリティや面接での受け答えにその違いを見ることができます。高い
レベルに挑戦する学部生は、敵が2つ年上の大学院生だということを心得て作戦を練りま
しょう。最初から高いレベルを目指して大学院に進むつもりの学生も、学部3年や4年の夏
は就活を意識した活動をするのが良いと思います。大学院1年の就活が、人生で初めての就
活であるより、2回目である方が断然有利です。大学院に進む利点を最大限活用しましょう。
年が明けると、ちらほら内々定をもらう学生が出てきます。建築は他の業界に比べ比較的
早いので、他の学科の学生のペースに合わせていたら、自分の重要な時期を逃してしまう
パターンもあります。業界や業種によって募集や選考の時期が異なるのには注意が必要で
す。また、同時にいくつもの企業の選考を受けることも重要です。恋愛のように一途な気
持ちが大切に思うかもしれませんが、多くの場合で企業はそこをくみ取ってはくれません。
「私は一つのことにしか集中できないから、今は〇〇設計事務所に全力投球」もダメ。企
業だって、何百人、何千人の中から相応しい人を選ぼうとしているんだから、あなたが二
股や三股するくらいは浮気のうちになりません。こここそ「浮気は文化」で乗り切りたい。
恋愛は人生を通して何度でもできるけど、就活ってそんなに何度もするものじゃないし、
学生中の就活って実は人生で一度きりです。
最後に、就活中の学生から聞いてはっとした出来事をいくつか紹介します。1つ目は、「就
活して初めて建築の広さを知った」といった学生の感想。授業などでも「建築の分野は広
い!」と常々言っていますが、本当にその広さを知るのは大学の外だということです。建
築を設計する設計事務所があり、建築を建てる建設会社やサブコンがあり、そこに材料を
供給する鉄骨会社や木材屋、サッシや衛生器具を売るメーカー、はたまた発注側になるデ
ベロッパーなど業種だけ見ても本当に沢山存在し、そのすべてに建築系学科の出身者が就
職しています。学生にとって、どの業種が何をやっているのかはなかなかわかりにくい。
就活はこの複雑な建築分野を知り、その一角で建築に関わっていくことを考えるスタート
になります。一度働き始めたら、なかなかそこから全体を俯瞰することは難しいので、ぜ
ひ就活を通してその視点を得てもらいたい。
また、ある建設会社のインターンシップにて、RhinoやGrasshopperを使う杉田宗研究室
の学生の周りにおじさん達が群がってる場面に出くわしたこともありました。大学では普
通のことであっても、実務の中ではまだまだ足りていない技術であることも多々あります。
インターンシップは、単にその企業を知るだけが目的ではなく、あなたのPRのチャンスで
す。受け身で行ったとしても、ひょんなことで強烈なPRの機会が舞い込んでくる可能性も
ある。そういうチャンスの時に、あなたがどう振舞うことができるかが、就活だけでなく、
その後のキャリアにも影響すると思います。
みなさんの就活が素晴らしいものになるよう応援しています。