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コラム

BimDAO〜BIM教育コミュニティは可能か?

2023.05.23

パラメトリック・ボイス
              スターツコーポレーション /
Unique Works 関戸博高

最近I T技術者の給料が転職により、2〜3割上がったとマスコミに取り上げられている。
理由はもっぱら高齢化や景気回復による人手不足が原因で、個々の技術者の能力向上の困難
さ、つまりは希少性についてはほとんど触れられていない。「高度人材」と言う言葉は散見
されるが、概ね金融系の外国人に使われていることが多い。IT分野の急速な変化への対応を
迫られ日々努力している技術者にとっては、この論調は納得度が低いのではないだろうか。
ここで私が焦点を当てたいのは、以前より技術者の能力向上を支えてきた「家庭内独学」に
ついてである。これに対置するコンセプトが「BIM教育コミュニティ」である。話題の
ChatGPTなどを使ってたどり着いたのが「DAO(自律分散型組織 Decentralized
Autonomous Organization)」で、その延長線で「BIM教育コミュニティ」のことを
「BimDAO」と名付けた。現在の生半可な知識で提案するのは、拙速に過ぎると言われそう
だが、試案として投げかけておきたい。
 
「BIM教育コミュニティ」を思いついたのは、2月中旬の30人ほどのBIMプロフェッショナ
ルが集また食事会の席だったそれはBIMデータの連携について意見を交換していた時だ。
この集団が組織の壁を超えて連携し、日本のBIM環境、特に課題解決や人の育成について協
力するコミュニティを作り、まず第一歩としてハイレベルな3〜400人ぐらいの「BIM紳
士録」を作るところから始めてみてはどうかと思った。理由は日本のBIMについての社会人
教育が手付かずのままで、大半が個人の独学に任されていると感じていたからだ。CADの時
代までなら会社はOJTという名目でお茶を濁してこれた。だがその結果が、日本のBIMリテ
ラシーの大きな遅れを生じさせたのではないか。実際大手建設会社においてもBIMデータの
連携が出来る人(BIMマネージャークラス)は、かなり限られており、社内に数人いれば良
いと言える程度ではないか。私はこれを日本の「BIMの社会問題」と名付けてみた。

現状をもう少し詳しく記述してみる。これに対応できる仕組みが「BIM教育コミュニティ」
のとりあえずの課題だと思っているからだ。
① 社会人になってからBIMをやり始めた人はソフト会社の教育用ビデオやYouTubeなど
  を利用して操作方法を身につけるだがデータ連携の領域をマスターしようとすると
  IFCやデータ変換やファイル管理の方法等、OJTの範囲を超えて学ぶ必要が生じ、その結
  果、独学では越えられない壁にぶつかる人が多くなる。
② 単一企業の中だけでBIMデータを扱うのと、複数企業間でデータ連携を扱うとでは理論
  武装の次元が違ってくる。そのような領域となると社内教育の範疇には中々納まらない。
  またこのような広範囲な課題に対して適任の教師役をタイムリーに探すのが大変である、
  等々。

次にどのような組織形態によってコミュニティを運営すれば良いかを考える必要があった。
Web 3関連を調べていてDAO という考え方に出会った。それは「ブロックチェーンの登場
によって可能になった、新しいコラボレーションの形であり、ブロックチェーン上で実行さ
れるルールを共有しあい、ミッションを中心に組織されたグループ、コミュニティ(亀井・
鈴木・赤澤著『Web3とDAO』より)」のことだとされる。元々知っている人でないと正直
言ってこの説明だけではDAOを理解することは難しく、望むものができるかどうかも分から
ない。ここでは紙幅の関係で「BIMプロフェッショナルの教育コミュニティ〜BimDAO」に
ついて概要を述べてみることにする。
<BimDAOのビジョン〜継続検討中>
・BimDAOは建築業界におけるBIM技術(者)の教育・普及・活用・共有の相互助け合いの
 自律分散型組織のコミュニティとする。当面はプロフェッショナルな人材を中核として、
 BIM技術情報の交換や若手育成を目的とし、それに注力する。
・このコミュニティは、ブロックチェーン技術を活用し、関係者が持つ情報を安全かつ透明
 に管理できるようにする。
・日本の「BIMの社会問題」に対して参加者間で協力し解決するようにする。
・BimDAOの参加者は個人が基本であるが、企業のBIM技術者育成機関その他の要望に対し
 ても対応できるようにする。
<BimDAOの原則>
・参加証トークンの発行:参加者がDAOの活動に参加する人に発行されるトークン。これは
 参加者による決定への参加や、貢献したことを証明する。トークンの発行にはブロック
 チェーン技術を使用し、所有権と流通を追跡することができるようにする。
<BimDAOの将来〜夢か?>
・各企業はBIMデータを漏洩させないように知恵を絞っているが、本来はデータをつないで、
 より付加価値のあるデータにすることに注力する必要がある。高度なデータ連携の場では
 個人をベースとするBimDAOと企業が連携する可能性がありえる。
・将来において、BimDAOがデータ作成の仕事を受けられるようになり、このプラット
 フォームが国際性をもてるなら、各国のBimDAOが連携してデータの作成を作り続けられ
 る可能性も出てくる。当然様々なルールを決める必要はあるが、不可能ではないと思う。
・BimDAOがコミュニティをベースに仕事を受けられるようになれば、運営費用や各協力者
 への支払いをインセンティブとして充てることができるようになり、参加者トークンに価
 値が生じる可能性もある。

このBimDAOを夢のようなことと思われる方も多いでしょうが、BIMプロフェッショナル
10人がコアメンバーとして集まったとしたら、もしかしてと思いませんか? 私には時代が
それを求めているように思えます。

関戸 博高 氏

Unique Works     代表取締役社長