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コラム

髙木秀太先生の教室

2023.07.13

パラメトリック・ボイス              髙木秀太事務所 髙木秀太


ようこそ、髙木秀太先生の教室へ
 
こんにちは、髙木秀太です。連載第二回です。突然ですが、私には自身の本業である建築家・
プログラマーとは別にとびきりの副業があります。フリーランスの大学の先生です。これまで
とても良い機会に恵まれて、日本全国津々浦々の大学で教鞭を執らせていただいてきました。
今回は、そんな私が担当している大学の授業について紹介しようと思います。建築とデジタル
に関する授業を求められる髙木秀太先生は、次世代の建築学生達にどんなことを伝えたいのか。ArchiFuture Web版特別授業の開講です。
 


 ①現代的な「判断力」を求める
 
最も大切にしたいことを最初に。髙木先生はデジタルの「判断力」を学生に強く求めます。建
築設計のスタジオ課題や研究活動において、「ここはアナログで検討するべきか、デジタルで
検討するべきか」を理知的に判断できるような学生になってほしいと思うからです。また、そ
のような「判断力」こそが、若者に限らず、このデジタル時代を生きるすべての人々に求めら
れていることだとも、私は思います。
 
建築✕デジタルという授業を開講する特性上、私の授業ではデジタルツールやデジタルテクノ
ロジーの話題が多く挙がります。しかし、丁寧に説明をしないと、過剰にデジタルを盲信させ
てしまうリスクがあることが、いつも私の懸念です。例えば、デジタルスタディの強みを説明
するときは、必ず、アナログ(リアル)スタディの強みも同じ熱量で伝えるよう心がけます。デ
ジタル(あるいは、アナログ・リアル)の良し悪しを過不足なく理解してほしいのです。「どん
なデジタルテクノロジーを知っているか、どんなデジタルツールをマスターしているか」、こ
のようなことはデジタルという広大な領域を局所的に切り取った些末な問題に過ぎないと、個
人的には思います。重要なのはアナログ・リアルとで対比されるような大域的な理解です。こ
れは、なかなかに齟齬無く伝えるのが難しいのですが、、、
 
コンピューターの効果的な使い所(=タイミング)を、時には論理立てて説明することもありま
す。私の拙論「つくるしくみ、えらぶしくみ」は大学の授業から生まれた論考です。私もその
伝え方を日々、試行錯誤しています。
 


 ②あなたに合っている「アルゴリズム」を知る
 
アルゴリズム」という単語が多用されるのも、髙木先生の授業の特徴です。聞き慣れない単
語であると思いますが、私の授業に限らず、デジタル業界ではよく聞く単語です。とてもザッ
クリとしたものになりますが、「なにかをつくるときの手順のこと」、という風に説明するこ
とが私は多いです。数学の数式やコンピュータープログラムもアルゴリズムの一種です。「こ
れこれこういう手順を踏むと、必ず結果が得られる」、そういった一連の手続きをまとめてア
ルゴリズムと呼びます。デジタルテクノロジーと大変相性が良い概念なのですね。
 
ちょっと難しそうなこの「アルゴリズム」ですが、決してみなさんから遠いものではありませ
ん。日々の生活のなかにアルゴリズムはたくさん存在するのです。その「厳密さ」には、さま
ざまな幅があるのですが、、、。
 
例えば、料理。これは「厳密さを求めないアルゴリズム」です。これこれこういった食材を用
意して、この手順で作れば、はい、カレーの出来上がり。ちょっと食材や手順を間違えたり、
意図的になにかに置き換えても「それなりのカレーが出来上がる」ことに豊かさがあります。
 
例えば、プラモデル。これは「厳密さを求めるアルゴリズム」です。これこれこういったIDの
ついたパーツを、この手順で組み上げれば、はい、ガンダムの出来上がり。正しい手順を厳格
に守ることによって「寸分違わないガンダムが出来上がる」ことに豊かさがあります。
 
建築計画ももちろん、「アルゴリズム」です。そして、現代の日本の建築はどちらかと言うと
プラモデル寄りの「厳密さを求めるアルゴリズム」で成り立っています。建築図面やパースと
いう目標を用意して、そこに達するまでの手順を明確に示すことが求められます。コンクリー
トの基礎を打つタイミング、躯体を構築する工程、ガラスを嵌める手順、すべてが厳密にコン
トロールされたアルゴリズムです。しかし一方で、世界には料理寄りな「厳密さを求めないア
ルゴリズム」で成り立っている建物もあります。まるで、冷蔵庫の残り物を寄せ集めて作った
ようなありあわせの豊かさ。特に土着的な文化圏では、そんな豊かさをもつ建物にたくさん出
会えますね。

みなさんはどんなアルゴリズムで建築設計と接したいですか??「計画」と呼ばれるからにはア
ルゴリズムからは逃れられないような気もします。差が出るのは「厳密さ」です。そして、そ
こにアルゴリズムが得意なコンピューターをどう介入させるべきか、いや、させないべき
か、、、ちょっと哲学的な問いかけになってきましたね。本日はこれくらいで。
 


髙木秀太先生は大学が大スキ
 
大学が大好きです。もう本当に大好きで、この感情は一言では言い表せません。これまで、連
続講義の他に単発のレクチャーも含めれば、20以上の大学でさまざまな学生と出会ってきまし
た。若く、力強い、靭やかな頭脳を持っている建築学生と接していると、私自身も若返るよう
な気分になります。そして、私も学生から学び続けます。フレッシュな感性や知性を日常的に
学生から得られるということは、センセイと呼ばれる職種の特権です。学生時代に所属した研
究室の教授が、若き日の私に説いたこんなフレーズが忘れられません。「若者がオモシロイと
思ったことは、間違いなくオモシロイ」。全くその通りだと思います。彼らが、建築の未来そ
のものなのです。ああ、なんて幸せな仕事なんでしょう、学校の先生というのは。建築の最前
線と常に触れられるのですから。
 
建築学生諸君、これからもどうぞよろしく。髙木秀太先生の教室でいっしょに建築とデジタル
の未来を楽しく探究していきましょう。

髙木 秀太 氏

髙木秀太事務所 代表