「部屋」さえあれば、設備もBIMを有効活用できる
~設備設計を合理的に行う基本設計からのBIM活用~
2023.07.19
パラメトリック・ボイス 日本設計 吉原和正
設備にとって、BIMを活用するのは実施設計から、という固定観念に囚われていないでしょ
うか。
確かに、国土交通省告示98号(建築士事務所の開設者がその業務に関して請求することので
きる報酬の基準)で、基本設計の標準業務として定められている成果図書は、計画説明書や
設計概要書なので、基本設計でBIMを成果物として作成するには、現時点では、標準外業務
として取り扱う必要が生じてしまいます。
現時点では、BIMを利用した成果物として日の目を浴びるのは、実施設計での設備図面とい
うのも事実なので、設備のBIM活用は実施設計からになりがちなのは自然な流れとも言えな
くもありません。
設備図という成果品だけで考えてしまうと、建築図変更に伴う設備図修正をなるべく減らす
ために、建築が確定するのをできるだけ待って、最後の最後に短期集中で図面化することに
なりがちで、そのようなやり方に染まり切ってしまっている方も多いのではないでしょうか。
但し、これは、BIMを成果品の一部としてでしか捉えていないからであって、設計プロセス
を合理化するためにBIMを活用しようとすれば、少し違った景色が見えてくるはずです。
BIMデータの作成プロセスは、線でいきなり図面作成を行うCADと違って、モデリングとい
う作業と、ドキュメンテーションという図⾯化の作業の2段階に分かれ、オブジェクトで建
物の設備モデルを最初に構築して調整した上で、そのモデルから整合した各種図⾯が⽣成さ
れる流れになります。
そのため、設備設計での合理的なBIM活用方法というのは、基本設計での事前検討からモデ
リングに着手しておいて、その代わりに、実施設計の図面化で楽できるように進めるべきな
のです。
事前検討を、従来のやり方のままにしておいて、成果品作成のところだけBIMを活用したの
では、BIMデータを作成すること自体が目的になってしまって、合理化に繋げることは難し
いでしょう。
設備設計者にとっては、図面を描いたりチェックするのも業務の中心ではありますが、部屋
の条件整理をしたり、システム検討したり、ZEBの検討をしたり、機器能力を選定したり、
機器表を作成することの方が重要な業務なはずで、そこをBIMで合理化を図るべきです。
設備で扱う、室諸元設定や、負荷計算、換気計算、機器選定、機器表作成、省エネ計算といっ
た一連の作業は、建築の「部屋」に紐付いていることが多いため、部屋名や床面積、天井高、
用途などを、直接BIMモデル上でデータ連携できれば、現状の煩雑な作業がかなり改善でき
るはずです。
この「部屋」だけでも良いので、基本計画や基本設計序盤のステージに建築BIMモデルがあ
れば、設備の事前検討もBIMを絡めて行えるようになり、設計プロセスを合理化するために
BIMが有効活用できるようになるはずです。
(設計序盤から設備もBIMで関わると言っても、無駄に初期段階から詳細なモデリングをして
もフロントヘビーになり変更作業に振り回されてしまうだけなので、モデリングはステージ
ごとに必要最低限に抑えるべきであることは言うまでもありませんが)
建築のプラン確定を待ってから本格的な検討に着手して図面化するという慣習を脱却して、
S2(基本設計)からプラン確定に向けて設備もBIMモデルで事前検討を行い、S3(実施設計1)
にかけて総合調整した上で、その後、S4(実施設計2)でドキュメンテーションという図面化
を行うという設計プロセスへ。図面作成の効率化だけに留まらない、設計を合理化できるよ
うに意識改革した上で、BIMを適切に活用することが、これから求められていることではな
いでしょうか。
そのためには、建築BIMモデルは「部屋」さえあれば十分です。
それさえあれば、設備もBIMを有効活用できるようになるはずです。