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コラム

単調な日々に刺激的なワークショップを!

2023.07.27

ArchiFuture's Eye                  広島工業大学 杉田 宗

そろそろ夏休み。子供が小学校から持って帰ってくる連絡袋には、夏のワークショップの案内
が沢山入っていました。SNSでも「〇〇イベントへの申込は本日まで!」と、魅力的なイベン
トの情報が毎日流れてきます。ただでさえ忙しいので、「これ以上無理!」とスルーを連続し
てしまう日々。コロナ以降、イベントのオンライン開催が一般化したお陰で、物理的にどこか
に行って参加する縛りがなくなり、世の中は様々なイベントやワークショップで溢れています。
 
そんな飽和状態のイベントやワークショップに、何をきっかけに飛び込み、そこで何を得るの
かが今回のテーマ。6月~7月にかけていくつかのワークショップに関わった私自身の体験を紹
介しながら、まだあなたが知らないワークショップの世界へとお連れします。
 
そもそもワークショップとは、どういったものを指すのでしょう?Wikipediaで調べてみると
冒頭に以下のような説明がありました。
 
ワークショップは、学びや創造、問題解決やトレーニングの手法である。参加者が自発的に作
業や発言をおこなえる環境が整った場において、ファシリテーターと呼ばれる司会進行役を中
心に、参加者全員が体験するものとして運営される形態がポピュラーとなっている。

「ワークショップ」(2023年2月8日 (水) 13:27 UTCの版) 『ウィキペディア日本語版』
 
「学びや創造、問題解決やトレーニングの手法」ってすんごい幅広いけど、これらのバランス
が良いワークショップほど参加者の満足度が高いと言えるでしょう。また、「参加者全員が体
験するものとして運営される形態」というのも重要ですね。体験なくして、ワークショップは
成り立たない。例えば、竹中工務店とAAスクールが共同主催した『AAVS Kobe』では、日本
の伝統的な大工技術と、最先端のデジタルファブリケーションを組み合わせて作られる「現代
の塔(パゴダ)」をデザインし制作しました。竹中道具大工道具館を会場に行われた14日間の
ワークショップには世界中から様々な参加者が集まりました。Grasshopperのプラグインと
して有名なWallaceiの開発者でもあるシドニー工科大学のモハメド・マキ先生がプログラム
ヘッド、竹中工務店の松岡正明さんがプログラムコーディネーターを務め、私もチューターの
一人として関わらせてもらいました。参加者それぞれが持つ知識やスキルがバラバラなため、
ワークショップの中には、GrasshopperやKaramba3Dのチュートリアルセッションだけでな
く、奈良の古建築を巡るフィールドトリップや吉野杉の生産現場の見学も含まれていました。
 
ワークショップの前半はグループでデザインを考え、模型やモックアップを作りながらデザイ
ンを発展させ、最終的には発表できる形にまでブラッシュアップします。短い期間の間に、デ
ザインについて(英語で)議論することや、それをグループの仲間とともに具現化する体験をし
ます。途中、険悪な雰囲気になっちゃう場面も見ましたが、それはそれぞれのこだわりがぶつ
かったりしている証拠。非常に健全であり、かつワークショップのダイナミクスと言えるで
しょう前半の成果として1つのデザインを選び後半の8日間で実際に制作しました。後半は
大工である阿保昭則さんが加わり、参加者にノミやカンナの使い方を教えながら全員で仕口や
継手の加工を行います。決まったばかりのデザインをもとに木取り図を作成し、主要部分の加
工を進めながら別のグループが屋根などのディテールを検討します。こういったスピード感や
グループ間の意思疎通もワークショップならではな体験です最終日には14日間の成果とは思
えないようなパゴダが完成しました。
 

 AAVS Kobeで制作したパゴダ

 AAVS Kobeで制作したパゴダ


また6月頭に行われた『Fes 2023』も「学びや創造、問題解決やトレーニングの手法」が詰
まったワークショップでした。こちらは建築情報学会が主催する短期オンラインワークショッ
プで、私は育成活動委員として企画から実施まで関わりました。昨年から始まったFesは建築
情報を主語に、様々なバックグランドを持つ参加者が建築や情報について考え、それぞれが協
力してアウトプトすることを通して学ぶ試みです社会人と学生の接点を作ることを目指し
社会人によるTHINKINGと、学生を中心にしたCODING+MAKINGの2部構成となっている点
が特徴です。今年はベトナムを拠点に活躍する建築家の丹羽隆志さんや、篠原岳さんを中心と
したvuildのメンバー、そして昨年に続き育成活動委員の杉原聡さんと北本英里子先生が
THINKerとして参加してくれました。
 
今年のテマは「集合住宅」にしましたそれぞれのTHINKerには集合住宅をデザインするた
めの「5つのステップ」を考えてもらい、それをCODING+MAKINGの参加者が実装してデザ
インの提案に落とし込む内容です。あえてオーソドックスな設計課題のテーマとすることで、
それぞれのTHINKerが得意とする領域に関連した「5つのステップ」が出てくるのでは?と想
像しておりましたが、丹羽さんは「緑化建築」、vuildチームは「デジタルファブリケーショ
ン」杉原さんは「エージェントベースデザイン」、北本先生は「メタバース」と全く異なる
「5つのステプ」が出てきましたCODING+MAKINGの参加者は自分が興味のある「5つの
ステップ」に投票しその結果をもとに6つのグループを形成してワークショップがスタート
しました。
 

 Fes 2023 THINKING Presentationでの丹羽隆志さんの発表
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のYouTubeへリンクします。

 Fes 2023 THINKING Presentationでの丹羽隆志さんの発表
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のYouTubeへリンクします。


今年もCODING+MAKINGの参加者は学期中にも関わらず5日間集中して作業を進めました。
大学や学年が異なる学生による遠隔での協働でしたが毎日議論を重ね少しづつmiroが成長
していく様子は臨場感に溢れていましたまた、THINKerにはチュートリアルセッションに登
壇してもらい、「5つのステップ」の実装に必要な3Dソフトやプログラミングの基礎スキルを
教えてもらう機会を設けたり、CODING+MAKINGの進捗に対してフィードバックしてもらい
ました。学生たちにとっては、こういった特別な時間がワークショップのハイライトになった
のではないかと感じています。
 
また、miroやdiscordを活用した完全オンラインのワークショップであった昨年からのアップ
デートとして、今年は最初と最後のイベントを対面とオンラインのハイブリッドとしました。
せっかく社会人と学生の接点が生まれるのに、懇親会ができないのはもったいないということ
で、6月9日に行われたTHINKINのプレゼンテーションは立命館大学の東京キャンパスから配
信を行い、最終日のCODING+MAKINGのプレゼンテーションは広島から配信しました。それ
ぞれに20名近い参加者が集まり懇親会も大変盛り上がりましたやはり対面でしかできないコ
ミュニケーションがあるし、オンラインだけで完結しないワークショップの価値を実感しまし
た。
 

 Fes 2023 CODING+MAKING Presentation後に行われた懇親会。
 来年のFes2024は5月31日(金)~6月5日(金)の予定です。
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のYouTubeへリンクします。

 Fes 2023 CODING+MAKING Presentation後に行われた懇親会。
 来年のFes2024は5月31日(金)~6月5日(金)の予定です。
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のYouTubeへリンクします。


両方とも非日常的かつ短期間の体験で、終わってしまえば「あれは何だったんだろう?」と夢
から覚めたような感覚になります。このような特別な体験が日ごろの生活を全く違った視点で
見ることになるだろうし、またさらなる特別な体験を求めて次のワークショップへの参加に繋
がっていくのではないかと思います。日ごろの仕事や学業が単調になっているあなたこそ、思
い切っていろいろなワークショップに参加してみてはいかがでしょうか。

杉田 宗 氏

広島工業大学 環境学部  建築デザイン学科 准教授