Magazine(マガジン)

コラム

改めて感じた建築の力

2023.08.24

パラメトリック・ボイス       SUDARE TECHNOLOGIES 丹野貴一郎

何度か本コラムでも触れましたが私は山形県山形市生まれです。いまでも両親が住んでおり、
いわゆる実家というものが存在します。
そんな実家へ先日4年ぶりに帰省をしましたコロナが5類になたことによて久しぶりに
帰れた山形は、寂しい駅前と活気のない中心部、中心から外れたところにある大きな
ショッピングモールとそこに続く渋滞の国道、という地方都市としてありがちな街でした。
私の実家のそばを通る幹線道路は拡張されており、沿道には道路に引っかかり建て替えたで
あろうハウスメーカーの新築建物がその裏の街とは異質なラインを形成していました。
少なからず建築に関わるものとして考えさせられる光景です。

と、普段は気にもしていない故郷に対してこんな時ばかり感傷的になってしまいましたが、
そんな中で建築の力を改めて感じることがありました。

今年の建築学会賞作品賞に選ばれたcopalという建物が山形市内にできました。
子ども達の遊び場としての施設なのですが、既に山形市内北側には同様の施設がひとつあ
り、そこが手狭になったこともあり市内南側に新たに作られたのがcopalです。
施設はインクルーシブプレイスという名を冠しており、ホームページにはインクルーシブに
ついて「性別や年齢、人種・国籍の違い、障がいの有無など、異なる背景や特性をもつ人々
が互いを認め合い、ともに生きることを指します。」と書かれています。

正直に言うと、このような児童遊戯施設に興味があったわけではなく、たまたま構造設計を
担当された平岩良之さんとお話する機会がありました。
設計をしていく中で不便な時は自らプログラミングしてツールを作り、デジタルの力で家庭
の時間を作っているとお伺いしたことや、copalの代表企業が以前本コラムでも取り上げた
ルターさんであることから単純に建物への興味として帰省のついでに見に行きました。

本来copalは予約制で子どもが遊ぶ施設ということもあり、予約もせず、ましてや大人だけ
で入ることはできないのですが、そこは山形の人の良さもあり突然訪問した我々を快く見学
させてくれました。

建物の形状やディテールにも感心していたのですが、それ以上に子供の遊び場としての仕掛
けや工夫、何よりそこで精いっぱい遊ぶ子供たちや一緒に楽しむ親たちを見て、この建築が
活気づくその空間を作り出していることに感動すら覚えました。

我々の仕事では竣工した建物の使われ方を見られないことも少なくありませんし、コン
ピューターの中の建物しか見られないことすらあると思います。
ましてや日々の業務に追われていると、関わった建築がただ通り過ぎていくのではないで
しょうか。

物理空間であろうと仮想空間であろうと建物は使う人によって生かされも殺されもすると思
います。作り手の思いが使う人たちによってさらに生かされていることに感動を覚え、そこ
にデジタルの力が必要であったことに少なからず影響を受けた帰省となりました。


 

丹野 貴一郎 氏

SUDARE TECHNOLOGIES    代表取締役社長