学生インターンシップと生成AI
2023.09.12
パラメトリック・ボイス 前田建設工業 綱川隆司
これを書いている9月の初旬は学生インターンシップの季節になります。昨年まではコロナ禍
で折角申し込んでいただいても感染状況次第では「テレワーク」インターンシップになってし
まい、こちらも受入に慎重にならざるを得なかったのですが、今年は対面実施前提で例年より
少し人数も増やして3名の学生を受け入れてます。彼らインターン生が当社の設計戦略部にく
る理由はまちまちで、「BIMが実務で使われているのを見たい」「脱請負物件の設計を知りた
い」「廃校活用の設計を知りたい」と三者三様でした。オフィスでの作業だけでなく竣工物件
の見学も織り交ぜながら2~3週間を過ごしてもらっています。
従来のインターンシップでは最初の数日をBIMのハンズオン講習に充てていましたが、最近は
既に何かしらのBIMソフトウェアを習得した学生が増えており、今回も簡単なオリエンテー
ションを行っただけで済みました。もちろんBIMの操作説明が必要な学生が参加した場合は今
後も初回はハンズオン講習を行いますのでご心配なく。
以前も書いたと思いますが、学生のポートフォリオは模型写真中心からここ数年で一気にCGレ
ンダリング中心に変化しました。BIMというよりはLumionやTwinmotionのようなビジュアラ
イゼーションソフトが普及したからだと思いますが、学生でも容易にフォトリアルな絵は作れ
る時代になったと感じます。ただCGパースはきれいでリッチなプレゼンテーションに見えます
が、伝えたい情報がなんであるのかを明確にするためには、要らないものを削ぎ落としたダイ
アグラムにした場合が良いなと感じます。たまにポートフォリオを見てくれと学生に頼まれた
ときは「何を伝えたいのか」に立ち返り、「そのために相応しい表現は何か?」を一緒に考え
るようにしています。
そんなインターンシップの期間で学生に何か新しい体験を持ち帰って欲しいと思い、会社で最
近使えるようになった画像生成AIのDALL・E 2で内観イメージ作成をお願いしてみましたが、
インターン生からは何度か試した後で「ライノでモデルを作ってレンダリングしたい」と言わ
れ、私は「そうだね」と返しました。実際社内でも「期待した絵が得られない」という声は多
く、プロンプトをあれこれ頑張る時間も無駄に感じなくはないです。
画像生成AIの使い道は、少し乱暴な言い方をすれば「私は考えるのが面倒なので何かアイデア
出せ!」と機械にお願いする感じだと思います。「こんな絵を作りたい」というビジョンが既
に頭に描けているならば自分でモデルから起こした方が良いでしょう。モデルについても既に
20年以上に渡り様々なビルディングタイプを作り溜めしているので、それらを流用して派生型
をつくることも出来ます。いわゆる流用設計なのですが、コピペ設計とかネガティブな捉え方
ではなく、自身の過去のリファレンスはその範囲や程度の問題はありますが、クオリティとコ
ストのバランスを考える上で有効な手段だと思います。
そんなこんなでモデルの入力をしてもらい、こちらの手持ちのデータを流用したものとマージ
をして、レンダリングをしたものを成果品としました。かなり短時間でできたと思います。
画像生成AIについては使い始めて日が浅いので検証する余地があります。生成AIを訓練する際
には教師データの質が非常に重要といわれます。業務で使用することを前提とするなら、ネッ
トに落ちているデータの寄せ集めを求めるよりも、敢えて自身の志向や好みのバイアスがか
かった教師データを学習させるべきかもしれません。一貫性や整合性を確保したデータからは
「新規性」や「意外性」は生まれないかもしれませんが信頼性のあるアウトプットが期待でき
ます。
現在は生成AIブームなので、ネット上はAIが作った文章や画像であふれています。人が作った
ものかAIが作ったものか、AI自体には区別することは難しい様で、AIが作ったものを参照して
AIが再生成することを繰り返すうちに、ゴミのような情報に溢れネットは汚染が進みそうで
す。
一方で今の学生の方々はどうでしょうか?
先日建築家で大学でも教えている某先生との会話ですが、今の若い人は過去の巨匠や有名建築
を参照するより、無名でも世代の近い作家やともすれば学生の作品にインスパイアされている
そうです。リファレンス先は建築雑誌のバックナンバーではなく、今ではWebサイトやSNSか
ら容易にデザインのアイデア集めを行うことが出来ます。何のバイアスもない建築を始めたば
かりの学生にとっては、近代建築四大巨匠も無名の学生が描いたドローイングも等価なのかも
しれません。
生成AIが出力したものを面白がっているおじさんと、歴史や伝統よりも自分の感性に従う若者
との対比はあまりにもこちらに分が悪いと思いました。よくAIとのチャットを「壁打ち」に例
えますが、昔からテニスを続けている私としても、自分の力以上の返球がない壁打ちより、上
手でも下手でもいいから誰かとラリーしたいです。ゲームもCOMと対戦するより対人でやった
ほうが面白いですよね。
私がまだ30代の頃、ある有名な海外の設計事務所と協業していた時、「設計者はホンモノ(本
当に良いもの)を見なきゃダメだよ」と今やプリンシパルになられた方から言われたことを思
い出しました。あれからどれだけホンモノを見ることが出来たのか分かりませんが、人もAIも
そこは同じということですね。